論文概要
本稿の論点は、牛肉の生産・消費がもたらす悪影響を考慮すると、多くの高所得の国々では、個人のレベルで全般的に牛肉消費を制限し、代わりに植物性タンパク質を摂取する道徳的な理由があるということである。牛肉の生産は、農業による温室効果ガス排出やその他の環境負荷の重大な原因となっており、牛肉を多量に摂取することには健康面での様々なリスクとも関連している。さらに、肉牛を飼育する畜産システムの中には、アニマルウェルフェアへの懸念が持たれるものもある。
こうした悪影響は、さまざまな道徳的観点から見て重大な問題であり、社会全体で牛肉の生産・消費を削減しなければならない道徳的な理由となっている。しかし、一部の倫理学者が主張しているように、生産の倫理から消費の倫理へとまっすぐ線を引いて繋ぐことはできない。すなわち、たとえある生産システムが道徳的に許されないものであるとしても、個々人の行動による影響がきわめて微々たるものである以上、いかなる個人にもそのシステムで生産された商品の消費を止める道徳的理由があるということにはならない。
本稿では、これらの点をいかにして結びつけるかを考える。個々人には牛肉の消費を抑え、植物性タンパク質にシフトする道徳的理由があるという本稿の結論について、これを支持する3つの論点を検討するとともに、それぞれの論点に対して想定される反論を検討する。ここでは特に米国の状況を取り上げたが、牛肉の消費量が多く、温室効果ガス排出量の多い高所得国であれば、この議論はそうした国々に居住する個々人にも等しく該当する。
Anne Barnhill, Justin Bernstein, Ruth Faden, Rebecca McLaren , Travis N Rieder, Jessica Fanzo
2022/06/17
Moral Reasons for Individuals in High-Income Countries to Limit Beef Consumption