鶏のストレス耐性は環境エンリッチメントで高められるか?

Hens with benefits: Can environmental enrichment make chickens more resilient to stress?

Misha Ross, Quinn Rausch, Brittany Vandenberg, Georgia Mason

2020/11/01

https://doi.org/10.1016/j.physbeh.2020.113077

論文概要

 

レジリエンスは、ストレスが個体の生理や行動に与える影響の程度のことであり、ポジティブな経験(ヒトではポジティブな気分、げっ歯類では環境エンリッチメントなど)によって増幅される。こうした効果はヒトの健康にとって重要であるが、畜産動物や実験動物、動物園の動物がストレスに対応する能力にも関連しており、アニマルウェルフェアにおいても重要な意味がある。ここでは、環境エンリッチメントによってレジリエンスが高まるかどうかについて、世界で飼育頭数が最も多い畜産動物であるニワトリを対象として検証した。

産卵鶏のストレス反応性について、エンリッチメントのある環境で5~6週間飼育された鶏と、狭くて何もなく、好ましいとはいえない鶏舎で飼育された対照群の鶏と比較した。評価項目としては、1.急に強い感覚刺激(閃光)を与えた場合の驚愕反射の強さ、2.身体的拘束に対する自律神経反応、見慣れない物体が急に現れた際の自律神経反応をトサカ(鶏冠)の体温低下を指標として計測した。

エンリッチメントのある環境で飼養された鶏では、驚愕反射は一貫して弱まっており、対照群の鶏の約6分の1の強さとなっていた。体温の低下幅および体温がストレスを与える前のレベルに戻るまでの時間も、いずれも対照群に比べて約3分の1低下していた。

従って、標準化されたストレス因子に対する鶏に固有の行動反応と生理学的反応は、エンリッチメントによって弱まっており、これは飼養されている鶏舎の外においても同様であった。エンリッチメントによるこうした効果は実験動物のげっ歯類でも見られる。

トサカの体温のベースライン値もエンリッチメントによって低下しており、鶏のウェルフェアを非侵襲的に測定する指標としてこれを利用できる可能性がある。こうした変化は、鶏の判断バイアスにおける変化に起因するものではないと思われる。

好ましい環境で飼養された鶏ではストレスに対するレジリエンスが向上すると考えられるが、今後の研究では、その基底にあるさまざまなプロセスを検証し、鶏における慢性ストレスの指標としてトサカの体温のベースライン値を調査する必要がある。

 

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