世界の海洋漁業における労働対価の減少

Diminishing returns on labour in the global marine food system

Kim J. N. Scherrer, Yannick Rousseau, Lydia C. L. Teh, U. Rashid Sumaila & Eric D. Galbraith

2023/11/30

https://doi.org/10.1038/s41893-023-01249-8

論文概要

 

世界の食糧生産において人間の労働力が占める割合は、過去100年にわたる技術の進歩によって大幅に減少した。陸上における生産高は、こうした進歩によって増加し続けているため、農業従事者が減少しているにも関わらず、増え続ける人口を養うことが可能となっている。しかし、漁業の場合、技術の進歩によって生産高が同じように増えるとは限らないことが従来から知られている。

水産資源の自然生産力には限界があり、これが漁獲量に強い制限を加えているため、そこに多大な労働力が投入される場合、乱獲につながる可能性がある。しかし、世界の海洋漁業における労働力の変化はこれまで検証されておらず、漁業において技術と従事者、漁獲量が全体として互いにどのように作用しているのかは不明である。

1950年から2015年までの世界の海洋漁業における従事者数のデータを集計して再構築した結果、漁業の機械化にもかかわらず、漁業従事者の総数は増加しており、今後も反転する兆しは見られないことがわかった。これは、低・中所得国において漁業者数が大幅に増加したことが、高所得国において約60%減少したのを大きく上回ったためである。

このため、天然魚の漁業者1人当たりの漁獲量は、技術の大きな進歩にもかかわらず、1990年代以降は減少しており、これは同じ期間に農家1戸当たりの生産量が70%増加したのとは対照的である。世界平均でみた漁業の労働対価は、1950年から2015年にかけて減少あるいはマイナスに転じていることすらあり、食糧の生産効率や海洋生態系、漁業コミュニティに弊害をもたらしている。

 

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