論文概要
この研究は、インドの活動家がソーシャルメディアを使ってヴィーガニズムを推進する方法を探っており、「なぜ」から「どのように」へと視点を変え、乳製品に関する独自な文化を導いていく必要性を強調している。
インドには菜食主義の長い歴史がある一方で、動物性食品の生産と消費は急速に増加している。2007年から2017年の間に、牛乳の生産量は63%増加し、鶏肉の生産量は114%も急増した。さらに、肉を食べたことのない男性の割合は、2017年から2021年の間に5パーセントポイント減少した。こうした傾向は、動物保護、環境の持続可能性、そして公衆衛生にとって重大な課題となっている。
インドでは、食の選択は宗教、カースト、そして国民的アイデンティティと深く結びついている。ヴィーガン主義はしばしば、上位カーストのヒンドゥー教徒の菜食主義の延長線上にあると誤解され、少数派コミュニティを疎外する恐れがある。また、乳製品はインド文化において神聖なものとされ、慈しみ深い母牛から授けられる聖なる霊薬とみなされている。インドの多くの人々にとって、牛乳は自然で、当たり前で、必要不可欠で、素晴らしいものと考えられており、これは西欧諸国における肉の捉え方とよく似ている。
この研究は、全3部構成のうち第2部(第1部も参照)となっており、インド独自の社会文化的状況において、ソーシャルメディア上でヴィーガン主義がどのように位置づけられ、推進されているかを分析している。研究者らは、これらの戦略を理解することで、より効果的で文化的に共感を呼ぶキャンペーンをデザインするための、データに基づいた洞察を、ヴィーガン主義推進者に提供することを目指した。
本研究のデータ収集は2021年1月から5月にかけて行われた。研究者らは、インドにおける主要なヴィーガン活動家23人を特定した。これには、PETAインド支部やインド動物保護団体連盟(FIAPO)といった大規模団体に加え、影響力のある個人活動家も含まれる。彼らは、2018年1月から2021年1月にかけてFacebook、Instagram、YouTube、Twitterなどのプラットフォームに投稿された500件以上のソーシャルメディアコンテンツの分析を行った。
このデータセットから、24の具体的なキャンペーンを選定し、アプローチの影響範囲、多様性に基づいた詳細なケーススタディを行った。分析では、コンテンツを5つの主要なフレームワークに分類した。
- 動物の権利と福祉
- 健康
- 環境の持続可能性
- 宗教と精神性
- ヴィーガン食の普及(栄養、代替食品、レシピに関する実践的なコンテンツ)
閲覧/視聴レベルは、ソーシャルメディアプラットフォームの定量的指標、特に動画の再生回数、投稿への「いいね!」の数、反応の数を測定することによって決定された。これらの指標は、再生回数が500回未満または「いいね!」数が100未満のコンテンツは「非常に低い」のカテゴリー、再生回数が3万回以上または「いいね!」数が1,000を超えるコンテンツは「高い」レベルのカテゴリー、再生回数が100万回を超えるコンテンツは「非常に高い」のカテゴリーに分類された。
研究者らはまた、行動変容の段階モデルとしても知られる理論横断的モデル(Transtheoretical Model)を適用し、各キャンペーンが行動変容のどの段階に取り組んでいるかを特定した。この枠組みは、個人が行動を即座に変化させるのではなく、段階的かつ循環的なステップを通してどのように行動を変化させるかをマッピングする。この枠組みでは、5つの主要な段階に分けられる。問題に気づいていない無関心期、問題を認識する熟考期、そして問題に対処するために変化を起こし、それを維持しようとする準備期、行動期、長期維持期である。
キャンペーンの影響範囲と構想
この調査によると、インドにおけるヴィーガン推進活動の影響範囲は現在、殆どが低水準にとどまっている。調査対象となったコンテンツの3分の2以上(68%)は閲覧/視聴者数が非常に少ないか少なく、閲覧/視聴者数が多いか非常に多いコンテンツはわずか14%程度だった。
エンゲージメントの高いコンテンツは、調査報道やストーリーテリング(講談)など、詳細な論拠と感情に訴える要素を組み合わせたものが一般的だった。そういったコンテンツ以外で例外的に影響範囲のあった例は、活動家のArvind Kannan氏とRobin Singh氏が挙げられる。彼らのフォロワー数は大手商業ブランドに匹敵する。
動物の権利は最も一般的な枠組みであり、24のキャンペーン事例のうち9つで使用されていた。次いで環境の持続可能性が5つのキャンペーンで見られた。宗教によるヴィーガンの選択はそれぞれ4つのキャンペーンで登場し、健康を主な焦点としたキャンペーンはわずか2つだった。しかし、これまでの研究によると、現在肉を食べている人が植物性食品中心の食生活を検討する際の主な動機としては、動物の権利よりも健康と環境が上位に来ることが多い。
活動家たちは、メッセージをインド風にアレンジする努力も惜しまなかった。例えば、ヴィーガン・インディア・ムーブメント(VIM)は、インドの歴史的な非暴力独立運動をモデルにした「サティヤーグラハ2.0」キャンペーンを展開した。PETA Indiaの「男の子を救え」キャンペーンは、政府の有名なスローガン「女の子を救え」を逆手に取り、雄の子牛やひよこの虐殺を訴えた。
乳製品の「壮大な物語」に挑戦する
擁護活動の大部分(24のキャンペーンのうち17)は、牛乳の文化的地位を打破することに焦点を当てていた。活動家たちは、人工授精、強制妊娠、子牛と母親の引き離しなど、酪農業界に潜む暴力を暴露することで、牛乳を概ね温和なものと見なしている一般の人々に認知的不協和を生み出そうとしていた。
インフルエンサーの役割
有名人を起用して社会的な模範を示すことは、インドにおけるクリケットと映画への強い関心を利用した戦略として広く普及した。ヴィーガニズムを当たり前のものとして捉えさせ、憧れの対象にしようとする為、クリケット選手のVirat KohliやボリウッドスターのJohn Abrahamといったスターを起用したキャンペーンが行われた。しかし、研究者たちは、こうした手法が時にヴィーガニズムにエリート主義や華やかさといった印象を与え、日常生活からかけ離れたものに感じられる可能性があると警告している。さらに、何人かの有名人がヴィーガンのイメージを打ち出した後、動物性食品を宣伝している姿が目撃されており、これは運動の信頼性を損なう可能性がある。
変化を支援するためのキャンペーンの活用
分析の結果、ほとんどの啓発活動は行動変容の初期段階、すなわち無関心期と熟考期に焦点を当てていることが明らかになった。つまり、動物の苦しみの「理由」に対する意識を高めることに重点を置いており、後の行動段階や維持段階に必要な実践的な「方法」に関する情報の提供には重点が置かれていない。そのため、倫理的な議論に納得した人でも、日々の習慣を変えるための知識が不足している場合があり、変化の後の段階に進むことができない可能性がある。
インドにおける効果的な擁護活動
この研究の対象はソーシャルメディアのコンテンツに限定されており、オフラインのニュースや政策提言は評価対象としていない。重要な点として、この研究ではこれらのキャンペーンが個人の行動変容に及ぼす実際の影響を測定していない。視聴/閲覧率が高いからといって、必ずしも食生活の変化につながるわけではない。さらに、使用されている理論モデルの多くは欧米の研究に基づいており、インドの状況にどの程度当てはまるかはまだ十分に解明されていない。
こうした制約はあるものの、この論文は、活動家たちがより効果的なキャンペーンを構築するための確固たる基盤を提供している。研究者たちは、調査結果に基づき、こうした取り組みを強化するための多くの提言を行っている。
- どうすれば良いかに焦点を当てる:多くのキャンペーンは意識向上にとどまっているため、変化を起こそうとする人々への支援が不足している。活動家は、動物性食品の代替レシピ、ビタミン欠乏症やその他の健康上の懸念に対処するための栄養アドバイス、ヴィーガン料理のガイダンスなど、より実践的なコンテンツを提供するべきである。
- 表現方法を多様化する:動物愛護団体以外の層にも訴えかけるためには、健康や環境といった視点をより拡充していくべきである。健康についての訴えは、特に高齢者層に対し効果的である。
- 少数派の声を取り入れる:多様な宗教的、カーストを背景に持つ活動家を含めることで、ヴィーガニズムを多数派のヒンドゥー教イデオロギーの延長ではなく、普遍的な倫理的問題として位置づけることができる。
- 戦略的なマーケティングに投資する:コンテンツの作成は第一歩に過ぎない。活動家は、既存のフォロワーを超えた新たな視聴者/閲覧者に情報を届けるため、戦略的なプロモーション、ハッシュタグ連携、動画フォーマットなどに投資する必要がある。
- 文化的な配慮を心がけること:社会的に疎外された人々の食習慣を対象にすることは避けるべきである。それは、栄養失調や食糧・栄養への権利といった問題に対する無神経さと見なされる可能性がある。代わりに、酪農などの主要産業や、食生活の選択権を持つ人々に焦点を当てるべきである。
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
原文タイトル:Content Analysis of Social Media. Vegan Advocacy in India: All Creatures Great and Small.
論文著者:Sarma, N., Gupta, N., Varma, A. R., & Mehrotra, S.
公開日: 2023/08/01

