論文概要
多くの企業が2025年までに中国でケージフリー卵へ移行すると約束していた。しかし、その大半は達成できておらず、企業担当者へのインタビューから、その理由が明らかになった。
中国では、世界のどの国よりも多くの採卵鶏が飼育されており、2023年時点で33億羽に達する。しかし、その約90%は従来型のバタリーケージで飼育されている。中国で事業を展開する企業は100件を超えるケージフリーへのコミットメントを表明しているが、完全に達成されたのは16件にすぎない。ケージフリー卵の検証を支援する認証制度はいくつか存在するが、これまでの研究の多くは、生産者や消費者に焦点を当て、コミットメントを掲げる企業自体には注目してこなかった。本研究はこの空白に直接目を向け、中国における企業のケージフリーへのコミットメントの達成を促進する要因と妨げる要因を検討している。
研究者は7人にインタビューを行った。内訳は、ケージフリー卵の調達を担当する食品企業の代表者5人と、ケージフリー認証制度を運営するプログラムマネージャー2人である。当時、中国国内にはこの種の制度が2つしかなかった。対象となったのは、国際的な本社を持ち、2025年までのケージフリーへのコミットメントを掲げる企業である。これらの企業は移行の先行者と考えられているためである。
食品企業の代表者へのインタビューでは、ケージフリーへのコミットメントに対する姿勢、実施上の課題、成功のための戦略を尋ねた。認証制度の管理者には、ケージフリーへの移行における制度の役割と、移行を促進・阻害する要因についての見解を尋ねた。その後、研究者は回答に共通するテーマを特定した。一部は先行研究を踏まえたもので、その他はデータから自然に浮かび上がったものである。
認証制度とケージフリーへの移行
認証制度の管理者は、自らの制度について、ケージ飼い卵とケージフリー卵を区別し、企業に明確な調達経路を示すことで、移行を支える重要な仕組みだと説明した。しかし、食品企業の代表者の多くは、こうした制度の存在をほとんど知らなかった。これは、中国市場において認証制度の認知度や評価が限られていることを示唆している。
ただし、認証の取得は第一歩にすぎない。認証制度の管理者は、販売される卵が本当にケージフリーであることを保証するため、生産者を効果的に監督する難しさも指摘した。適切なトレーサビリティ制度がなければ、認証制度の価値が損なわれるおそれがある。食品企業の代表者も、特に複雑なサプライチェーンにおける透明性と検証に懸念を示した。それでも、回答者は、業界主導の取り組みだけでは不十分であり、基準、検査、表示を含む政府の幅広い規制支援が必要だと主張している。
ケージフリーへの移行を促進する要因
回答者は、ケージフリーへのコミットメントを一様に強く支持していた。食品企業の代表者は企業ブランドへの好影響を挙げ、認証制度の管理者は、採卵業者の転換を促し、業界全体のケージフリー化を加速する効果を強調した。
食品企業の代表者は、組織内の賛同、方針の一致、協力の重要性も語った。経営層が明確な方向性を示し、移行に必要な資金を投入するトップダウン型の取り組みが必要だと強調した。一度に全面移行するのではなく、ケージフリー調達を段階的に導入できるようにすることも重要だと考えられている。この段階的な実施により、サプライチェーンが成熟し、コストが安定するまでの時間を確保できる。
ケージフリーへの移行を阻む課題
回答者が最も重大な課題として挙げたのはコストだった。食品企業の代表者は、仕入価格の上昇、社内予算の制約、追加コストを消費者価格に転嫁する難しさを指摘した。また、投資家、株主、従業員、経営陣は、他の事業上の優先事項と比べて動物福祉への投資をあまり重視していないとの声もあった。企業本社が世界規模で掲げたケージフリーへのコミットメントと、現地法人が直面する達成上の現実との間には隔たりがある。 さらに、全面移行にはサプライチェーンの複数の段階で変更が必要であり、その多くは調達企業が直接管理できる範囲を超えている。加工卵は殻付き卵よりも特に難しいとされている。一部の食品企業の代表者は、ケージフリー卵の供給量が依然として少なく、不安定だと考えていた。一方、ある認証制度の管理者は、工業的な大規模ケージ飼育モデルを模倣すれば、小規模生産者が締め出され、長期的な持続可能性が低下しかねないと警告した。
著者らは、中国のケージフリー卵の供給量はすでに予測需要を上回っており、供給不足への懸念は実際の不足というより不確実性を反映している可能性が高いと指摘している。短期的な解決策として、著者らは「ケージフリー・クレジット」を提案している。農場がケージフリー卵を取引可能なクレジットに換え、企業はケージフリー卵を調達できない場合に、そのクレジットを購入してケージ飼い卵の使用分を相殺する。クレジットは現物の卵とは別に売買されるため、販売農場が企業自身のサプライチェーンに属している必要はない。一方、企業が主張できるのは、自社製品にケージフリー卵が実際に含まれることではなく、ケージ飼い卵の使用を相殺したということだけである。この仕組みにより、企業はサプライチェーンを再構築せずにケージフリー農場を直接支援できる。ラガルデール・トラベル・リテール(Lagardère Travel Retail)は、アジアでのコミットメント達成に向けてすでにこの制度を利用している。ただし著者らは、グリーンウォッシングの危険を避けるため、クレジット制度には透明性を持たせ、利用期間を限定する必要があると述べている。
本研究にはいくつかの限界がある。サンプルは7人と少なく、全員が研究者の一人の専門的な人脈を通じて募集されたため、中国の企業や認証機関全体を代表していない可能性がある。また、調査結果は2023年9月から2024年3月までの一時点を切り取ったものであり、その後、特に新たな認証・表示制度の開始に伴って状況が変化している可能性がある。さらに、筆頭著者はケージフリー・クレジット制度を運営する組織に勤務している。 とはいえ、本研究は、認証制度と企業のコミットメントが中国におけるケージフリー卵の調達をどのように推進しているかを検討した初の研究である。認証制度と企業内部の取り組みは一定の効果を上げているものの、弱いトレーサビリティ、高コスト、複雑なサプライチェーン、政策上の空白といった構造的問題が、なお進展を妨げている。解決には、より良い連携、より強固な保証制度、ケージフリー・クレジットのような手段が必要である。ただし、これらが長期的にどの程度有効かを明らかにするには、さらなる研究が求められる。動物擁護者は中国のケージフリー生産の将来を確かなものにするため、政府による幅広い規制支援を引き続き求めることで、認証制度やクレジット制度を後押ししていくことができる。
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
原文タイトル:Implementing cage-free egg commitments in China: An explorative qualitative interview study of corporate and certification perspectives on cage-free egg procurement.
論文著者:Yang, Q., Dwyer, C. M., Langford, F. M., Zhao, R., & Vigors, B.
公開日: 2026/07/15

