論文概要
研究者は、魚を単に重量でカウントするのではなく、個体数で数えることが、酷く軽視されている魚への動物福祉(ウェルフェア)に取り組む第一歩になるだろう、と主張する。
天然漁業におけるような動物福祉(ウェルフェア)の問題の状況を理解するには、どれだけの動物が影響を受けているかを知ることが、きわめて重要である。しかし、魚の感覚能力に関するコンセンサスが高まっているにもかかわらず、国連食糧農業機関(FAO)は依然として世界的な漁獲量をトン数でしか報告していない。そのため、二人の研究者が、FAOのデータを使って、2000年から2019年の間に世界中で漁獲された個体数を推定することに着手した。
研究チームは、オンライン上の情報源から収集した魚の重量データを用いて、推定平均重量(EMW)および一般的推定平均重量(GEMW)を算出した。適切なデータが見つかった種についてはEMWを特定し、直接的なデータが得られない場合にはGEMWを使用した。
例えば、特定の魚の重量の情報が記録として残っていなかった場合、研究チームはその魚の近縁種のデータで代用した。その後、各魚種に対し、FAO(国連食糧農業機関)による年間総漁獲トン数をEMWまたはGEMWで割ることで、年間に何匹捕獲されていたのか算出した。
計算の結果、2000年から2019年にかけて、1,725種に及ぶ1.1兆〜2.2兆匹の魚が毎年漁獲されていたことが明らかになった。この数字は、20年間の調査期間全体では、22兆〜44兆匹という驚異的な数に換算される。
魚の大部分は太平洋で獲られており(56%)、次いで大西洋(18%)、湖、河川、小川、運河などの内水面(12%)、インド洋(10%)、地中海および黒海(3%)と続く。大陸別では、アジアが大部分(43%)を占め、アメリカ大陸(34%)、ヨーロッパ(13%)、アフリカ(10%)、オセアニア(0.3%)の順となっている。
ペルーが世界全体の漁獲量の約4分の1(24%)を占め、中国(11%)とチリ(7%)がそれに続き、上位3カ国となっている。ペルーとチリで主に漁獲されるペルーアンチョビー(カタクチイワシ)は、推定総漁獲量の28%を占めており、アンチョビーのような小型魚としては驚くべき数字である。
世界の魚の捕獲規模は、全体像として、2019年だけを見た場合に、食料として殺された脊椎動物全体のうち野生で捕獲された魚が87.5%を占めている。これに対し、養殖魚は7.5%、畜産鳥類は4.7%、畜産哺乳類は0.2%だった。
データから省かれていたこと
この研究では、魚類にのみ焦点を当て、十脚甲殻類(カニ、ロブスター、エビなど)や頭足類(タコ、イカ、コウイカなど)といった他の「シーフード」とされる動物を含んでいないことを記しておく必要がある。さらに、研究者らが依拠したFAO(国連食糧農業機関)のデータは、漁獲量の記録のみが載っており、データには以下が含まれていない。
- 違法・無報告・無規制(IUU)漁業によって漁獲された魚
- 海(水)に再放流された魚(リリース魚)
- 漁網から逃げ出した、または避けた後に死亡した魚
- 紛失または投棄された漁具に捕まった魚(ゴーストフィッシング/幽霊漁業)
したがって、実際に殺された個体数は、ただでさえ把握しきれないほどだが、おそらくそれよりもさらに多い。
ではどうすべきか?
研究者たちは、魚類に知性(感覚)があるという証拠と、捕獲時に魚が受ける悲惨な状況を強調している。その状況は、急激な気圧変化による負傷から、陸揚げ後死に至るまで、長時間過ごさなければならないことまで多岐にわたる。彼らはいくつかの推奨事項を挙げている。
- より正確な個体数を算出できるよう、魚の個体数、あるいは少なくとも平均漁獲重量を報告すること。
- より予防的な漁獲枠の設定、混獲(意図せず獲れたが戻されずに保持される魚)の削減、また、本物の魚の代わりに人工餌を使用することで、漁獲数を抑えること。
- 食物連鎖の下位にいる小型魚を食べるよう勧める声には慎重になること。これは結果として、漁獲される魚の総数が増加する可能性が高いためである。
- 特に漁獲数の多い国において、野生の魚に対する法的保護を強化すること。
- 持続可能性だけでなく、アニマルウェルフェア(動物福祉)にも配慮した認証制度を支援すること。
- より人道的な捕獲および殺処分方法を開発すること。
この研究から得られた知見は、天然漁業は単なる資源保全や食料システムの問題にとどまらない、重大な倫理的懸念であることを示している。このデータは、活動家や政策立案者が、魚の福祉(アニマルウェルフェア)を向上させる、より良い慣行や規制を推進するために活用されることが期待される。
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
Note:
翻訳元の論文要約内では触れられていませんが、引用元の原論内からは、
・日本(および中国など)では養殖魚殺処分時の動物福祉(アニマルウェルフェア)について定めた法規制が存在しないこと
※漁獲量の多いペルー、チリ、インドネシア、インドなどでは法規制が存在
が確認できます。
また、漁獲量上位3か国のうちペルー、チリは輸出向けの漁獲が多く、日本にも多く輸入されていることについて留意が必要です。
※日本水産庁の水産白書の報告によると、2024年、日本は水産物食品輸入全体のうち、10.1%をチリから輸入しており、特にサケ・マス類の輸入については63.5%がチリからとなっています。また、それとは別に、直接の食品ではない、養殖魚飼料の主原料である魚粉(論文要約内でも挙げられている、カタクチイワシを使用)について、日本では輸入に大きく依存していることが確認できます。
出典:農林水産省ウェブサイト:令和6年度 水産白書 全文:水産庁
原文タイトル:Estimating global numbers of fishes caught from the wild annually from 2000 to 2019
論文著者:Alison Mood and Phil Brooke
公開日: 2024/02/08

