米国における動物福祉法執行の動向

論文概要

 

最高裁判所の判決、大統領政権の交代、連邦政府の検査官の減少などが原因で、動物福祉法の執行状況は近年で最も低い水準にある可能性がある。

原則として、米国農務省動植物衛生検査局(USDA-APHIS)は、動物福祉法違反の疑いのある者に対して措置を講じることができる。これには、和解合意、罰金通知、免許停止、押収などの執行措置、あるいは罰金を科さずに違反を施設に通知する公式警告といった形がある。しかし、この論文が明らかにしているように、世界的なパンデミック、2度の政権交代、そして米国最高裁判所の重要な判決といった社会的な大きな出来事により、既に緩かった執行力がより緩い状態となっている。

これらの出来事の影響を明らかにするため、非営利団体であるAnimal Welfare Instituteは、2020年1月から2025年8月の間に米国農務省動植物衛生検査局(USDA-APHIS)が動物福祉法違反の疑いのある者に対して行った執行措置および公式警告に関する公開記録を調査した。

著者らは、同機関のオンラインデータベース「動物福祉および馬の保護措置」にて検索を行い、データを収集した。このデータベースには、措置のラベルの誤り、添付ファイルの誤り、リンク切れなど、多くのエラーが含まれていたため、米国農務省サイト「行政法判事局の判決」、及びトムソン・ロイターが運営するオンライン法律検索プラットフォームであるWestLawという2つの情報源からの文書で検索を補完した。罰金と公式警告の抽出を行い、より詳細な調査が行われた。

著者らは、3つの主要な出来事の日付に合わせてデータセットを作成した。

  • 米国最高裁判所の証券取引委員会(SEC) – Jarkesy判決(2024年6月27日)は、証券取引委員会(SEC)が罰金を科そうとする場合、証券詐欺で告発された当事者には陪審裁判を受ける権利があると裁定した。
  • 大統領政権の交代は2回あり、具体的にはバイデン政権(2021年1月20日開始)とトランプ政権2期目(2025年1月20日開始)である。

彼らは毎年を2つの期間に分け、年の前半(1月20日から6月26日)と後半(6月27日から1月19日)を比較した。

全体的な傾向

分析では、2021年以降、執行行動よりも公式警告が優勢となったこと、そして2024年のJarkesy判決以降、罰金が急激に減少していること、という二つの傾向が特定された。

2021年1月の大統領政権交代前は、COVID-19パンデミックの影響で罰金や公式警告が比較的少なく発せられていた。その後数年で数は戻り、罰金は8件から22件、公式警告は1期間あたり74件から112件に及んだ。罰金は2024年初頭に38件でピークを迎え、その後2024年末には4件、2025年初頭にはゼロに急激に減少した。一方、同期間に公式警報はピークの123に増加している。

罰金と公式警告の主な動向

Jarkesy判決の14か月前には、毎月少なくとも1件の罰金が科され、合計63件の罰金が科されていた。しかし、Jarkesy判決後の14か月間で罰金が科されたのはわずか5件で、そのうち11か月は罰金が一切なかった。これはCOVID-19パンデミックの最盛期に発行された同期間よりも少ない数字となっている。

パンデミック以降、USDA-APHISの措置の多くは公式警告にとどまっている。Jarkesy判決の翌年には、公式警告が全措置の91%を占め、Jarkesy判決前の66%から大幅に増加している。

論文の著者たちは、パンデミック以前から、トランプ政権初期に執行措置や公式警告が減少していたことを指摘している。また、バイデン政権発足時からパンデミックの影響が収束したことは解き明かすのが難しく、トランプ政権2代目の影響について結論を出すにはまだ早すぎるとも述べている。

影響

Jarkesy判決は証券取引委員会(SEC)に関するものだったが、陪審裁判なしに罰金を科す他の機関の権限にも不確実性を生じさせ、Jarkesy判決後、USDA-APHISはほぼ公式警告のみを発行する方向に移行した。しかし、論文の著者らはこれらの警告が違反を抑止する効果的な手段になっていないと主張している。

研究施設は特にこの傾向の影響を受けている。彼らは免許ではなく登録証を持っているため、免許取り消しや刑事罰の対象にならず、USDA-APHISが行うことのできる主な手段は罰金となっている。しかし、罰金の額は、歴史的に実質的な抑止力を持つには低すぎた。さらに問題を複雑にしているのは、民間認定の研究施設は、2019年以降、USDA-APHISの完全な検査ではなく部分的な検査しか受けていないことである。よって、これらの施設内にいる動物たちは連邦検査官に最大3年間観察されないことがある。

この研究の結果は、これらの出来事とUSDA-APHISの行動との間に、因果関係というよりは、相関関係があることを示している。他の要因もまた、執行の低下に寄与している可能性がある。特に検査官不足は憂慮すべき問題であり、近年同機関は検査官の3分の1以上を失っており、そのうち、2025年の最初の数か月だけで約15%減っている。

規制対象施設の増加と検査頻度の減少もまた、傾向に影響を与えていると考えられる。2021年から2024年の間に、免許保持者および登録証保持者の数は11,785人から17,500人以上に増加し、検査件数は7,670人から約9,700人に増加している。これは1施設あたりの検査数が減少していることを意味する。2021年は1.5施設あたり1回の検査、2024年は1.8施設あたり1回の検査となっており、大幅に減少している。

USDA-APHISの違反対応は公式警告が中心となっており、動物愛護活動家にとって、動物福祉法の執行がかつてないほど弱体化していることは明らかである。特に、実験動物を保護する活動家にとっては、事態は切迫している。Jarkesy判決以降、研究施設に対して罰金が科された事例は一件もない。罰金が、こうした施設に対する、残された数少ない執行手段の一つとなっている。

最終的に、この論文は、USDA-APHISが法令遵守を確保し、全米の動物を保護する能力について、重大な懸念を提起するものとなっている。

※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。

 

原文タイトル:AWI report: Trends in Animal Welfare Act enforcement.

論文著者:

公開日: 2025/10/08 

論文URL:https://awionline.org/wp-content/uploads/2025/12/awi-trends-animal-welfare-act-enforcement-report.pdf

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