安い卵がもたらす未来とは?最近、「朝食指数(Breakfast Index)」という言葉が注目されています。これは、卵、パン、牛乳、バター、コーヒーなどの朝食の定番食品の価格変動を示す指標で、2022年以降急上昇しています。しかし、卵の価格について本当に考えるべきことは、「高くなった」のではなく、これまでが「不当に安すぎた」という視点です。卵の安さは、養鶏業者の負担、企業の価格競争、さらには鶏に無駄な苦しみを与える生産調整によって成り立っていました。それでも消費者が「安い卵」を求め続ければ、私たちの食の未来、環境、動物福祉に悪影響を与えるのです。安すぎる卵の裏側:本当のコストとは卵が異常に安く販売されることで、負担を強いられているのは、生産者、環境、動物たち、そして持続可能な社会そのものです。① 養鶏業の衰退と生産者の負担利益の出ない価格競争の中で、卵1個の生産コストが25円以上かかるにもかかわらず、市場では20円以下で販売されていた時期もあります。価格競争が続けば、低価格を維持できない小規模生産者は廃業に追い込まれ、大規模業者に市場が集中していきます。政府は「成鶏更新空舎延長事業」を通じて卵の供給量を調整し、価格の急落を防いでいますが、これ自体が健全な市場形成を阻害しています。その結果、価格変動に耐えにくいサプライチェーン構造を作り、業者が1円でも安い卵を求める元凶となっています。そもそも市場の体力が弱まり、生産者が経営できなくなれば、卵の安定供給は不可能になるのだから、この事業は生産者を守るといいつつ、本末転倒なのです。② 動物福祉を無視した生産体制日本の養鶏場の90%以上がいまだ「バタリーケージ飼育」です。この残酷な飼育設備で鶏は、A5用紙ほどのスペースに閉じ込められ、身動きすらできない環境で一生を過ごします。さらに「安さ」を維持するためには、過密飼育が必要になります。限られたスペースでより多くの卵を生産するため、鶏の自由な行動は極端に制限され続けています。しかし、適正な価格で販売されれば、生産者はよりアニマルウェルフェアに配慮した飼育方法にコストをかける余裕ができます。③ 企業のビジネス戦略が消費者の選択を決める私たちは、買い物をするときに「自分の意思で選んでいる」と思いがちですが、じつはその選択肢は企業のビジネス戦略によって決められています。スーパーに並ぶ卵のほとんどがバタリーケージ卵であれば、消費者はそれを買うしかありません。逆に、平飼いやケージフリー卵が当たり前に売られていれば、それが「標準」となり、消費者は自然とそれを選ぶようになります。価格のつけ方が価値観をつくる:企業のメッセージが消費者の意識を変えるビジネスの世界では、「価格戦略」が消費者の意識に大きく影響を与えます。250円の卵と400円の卵が並んでいるとき、250円の卵が「お買い得!」と強調されれば、多くの人がそちらを選びます。しかし、「この400円の卵は平飼いで、鶏の健康と自然な環境を守っています」と伝えれば、消費者の目線は変わります。どんな価格で売るかは、企業のメッセージです。価格は単なる数字ではなく、企業が何を大切にしているか、どんな価値を消費者に届けようとしているかを表しています。企業が「最安値」を強調すれば、「卵は安いもの」という価値観が定着します。しかし、「アニマルウェルフェアの卵が標準」とすれば、消費者はその価値を受け入れるようになります。企業が「安さ」ではなく「価値」を前面に打ち出すことで、消費者はより良い選択をしやすくなり、市場全体も変わっていきます。それが食の持続性につながるのです。つまり、企業がどんな価格を設定するか、どんなメッセージを発信するかによって、消費者の価値観は変動するのです。④ だからアニマルライツセンターは企業と交渉している市場の流れを変えるために、アニマルライツセンターは企業と交渉を続けています。飲食チェーンや食品メーカーには、「バタリーケージ卵ではなく、ケージフリー卵を使ってほしい」と働きかけ、スーパーやコンビニには「アニマルウェルフェアな卵の販売を拡大してほしい」と要請しています。また、企業が畜産物の持続可能な調達基準を採用するよう提案しています。企業の仕入れ基準が変われば、それが市場の「普通」となり、消費者の選択肢も変わっていくからです。未来のために、「安さ」ではなく「価値」で選ぼう企業のビジネス戦略が変われば、消費者の意識も変わります。消費者が「安い卵」を選ばなくても、企業が安い卵を仕入れ続ければ、問題は解決しません。企業が購買の基準を変え、持続可能な選択をすることが、社会全体の変革の鍵となります。だからこそアニマルライツセンターは、企業が変わることこそが持続可能な社会への第一歩と考え、交渉を続けています。クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article韓国の「動物福祉卵」の現状 No Newer Articles 2025/03/07