「卵の儲けは鶏に返して」 お月見商戦の裏側

9月・10月は、日本の消費にとって「谷間の季節」です。
夏休みで財布のひもが緩んだ後、年末のクリスマス、ボーナス商戦までは間があり、家計は当然引き締まります。実際、帝国データバンクの調査でも、2024年10月の小売業の景気動向指数(DI)は30点台に落ち込みました。(50点が標準)

しかし、この時期の食品企業には、売上を支える救世主があるのです。

それは卵。

1991年、日本マクドナルドが発売して以来、卵をお月見に見立てた、いわゆる「お月見商品」は、わが国食品業界の秋の定番となりました。

現在はマクドナルドだけでなく、様々な飲食チェーンがハンバーガー以外のお月見商品も、この季節に販売しています。日本フランチャイズチェーン協会(JFA)統計でも、2024年のコンビニ業界の9月売上は前月比約−7%でした。そんな中で購買意欲を刺激する季節商品に、企業は注目を集めてきました。

月見バーガーはなぜ“儲かる”のか

卵を月に見立てた季節商品は、現在下記などがあります。いずれも消費者になじみのある、有名飲食チェーンばかりです。

月見バーガー日本マクドナルド8月20日~
月見もっちウェンディーズジャパン8月27日~
チーズ月見もちバーガーファーストキッチン8月28日~
半熟月見バーガーロッテリア9月3日~
トリプル月見バーガーKFC8月20日~
月見ハンバーグびっくりドンキー8月27日~
月見温たま牛肉つけうどんなか卯9月3日~
月見すき焼き牛丼すき家9月4日~

秋の風物詩はお月見ばかりではないでしょうが、企業がなぜ『お月見卵』をこぞって販売するのかには理由があります。

月見バーガーの単品価格は2025年9月現在、440円。一方で、通常のハンバーガーは190円にとどまっています。月見バーガーはハンバーガーに卵、ベーコン、ソースを加えたメニューですが、両者の差は250円です。

卵、ベーコン、ソースの原価をそれぞれ市販価格で見積もると、卵 20円、ベーコン10円、ソース5円、合計しても35円ぐらいでしょうか。実際には、大企業は事業規模を活かした仕入れをしますから、原価はさらに圧縮されて安くなっているはずです。

つまり、普通のハンバーガーに卵・ベーコン・ソースを加えるだけで、粗利は1個あたりプラス約215円にも拡大するのです。ハンバーガーに卵を挟むだけで、215円も儲かるなら、なんとしてでも企業は月見商品を売りたくなるでしょう。

財務データが示す「お月見効果」

日本マクドナルド株式会社の財務諸表からもその「お月見効果」は裏付けられます。

2024年1〜6月売上高が2,009億9600万円(第2四半期累計)

2024年1〜9月売上高が3,036億1300万円(第3四半期累計)

以上の公開データから2024年7〜9月期の売上は1,026億円であると計算できます。

さらに同社月次IRでは
2024年 8月:既存店売上高前年比 +5.3%/全店売上高 よって前年比プラス7.0%
2024年 9月:既存店売上高前年比 +2.8%/全店売上高 よって前年比プラス4.5%

前年からの成長率を比較することで、9月の売上成長率は7〜8月より約1ポイント高いと言えます。この差を月間売上(約342億円)に当てはめると、月見キャンペーンによる“追加売上”は約3.3〜3.8億円とも推計できるのです。これは他の企業もお月見商戦に追随したがるはずです。

卵の儲けは鶏と生産者に還元を

月見バーガーをはじめとするお月見商品は、消費低迷期に企業の売上を支える存在であることは間違いありません。さらに、水より安いと言われる卵の原価に比べて、圧倒的に高い利益を上げる「お月見ビジネス」に、食品企業が揃って商戦を繰り広げるのは、日本の食文化としても不可思議だという意見も聞きます。もちろんお月見商品だけで企業の景気が良くなるはずはないとしても、それにしても、卵の経済効果は絶大すぎるのです。

しかし私たちは企業に、儲けるなと言っているのではありません。
卵で儲けた分は、鶏と生産者に還元すべきだと主張しているのです。
すなわち、ケージフリー卵への投資です。

お月見商品で一定規模の卵を毎年買い上げることは、生産者の今を支えることにはなるかもしれませんが、生産者の将来を約束することはできません。利益の一部をケージフリーへの移行に投資するのは、大量に卵を仕入れる企業として当然の責任ですし、1個250円の利益の中で、ケージフリー卵が使えないとは到底思えません。お月見商戦に平飼いを使おうにも足りないということであれば、生産者とともに平飼い鶏舎を増やすことに投資する、絶好の機会ではないでしょうか。

じつは卵を使ったお月見商戦は外食だけでなく、今や、コンビニ、スーパーマーケットでも、本来のお月見団子のほかに卵を使った商品が並ぶのも普通に見るようになりました。月にいるという空想のうさぎを愛でる季節に、動物の苦しみの象徴となったバタリーケージの卵が大量に消費されるのは、お月見文化の精神構造的にもそぐわないと思います。そもそも大企業が大量のバタリーケージの卵をいつまでも消費し続けることは、2025年の今、国際的にも容認されないことは言うまでもありません。

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