コチラの記事で魚が私たちと同じように痛みを感じ、社会生活をおくっていること、にもかかわらず彼らが苦しみに満ちた扱いを受け続けていることを書きました。魚が窒息するのにかかる時間は、人が溺れるのにかかる時間よりもはるかに長くなります(55〜250分)。しかし多くの食用利用される魚は窒息死させられています。魚たちの苦しみを無くす唯一の選択は、魚を食用利用しないという選択です。魚を食用利用してはいけない理由は、魚の苦しみだけではありません。乱獲や環境破壊で海の生き物が劇的に減少し、大規模な漁業によって海の地形・生態系・環境がズタズタに破壊されているという背景からも、これ以上際限のない魚の搾取を続けるわけにはいかないでしょう。いっぽうで魚を食用利用することを肯定したうえで、殺す魚の福祉を向上しようという動きもイギリスやノルウェーで以前からあります。ノルウェーはヨーロッパで最大の養殖魚の生産国であり 、法律で、養殖魚を殺す前に気絶させることが義務付けられており、頭蓋骨への打撃、電気ショックが気絶方法として使用されています。EUでも本格的な議論が始まっています。魚や甲殻類への虐待の規制・動向・裁判などここでは食用のために魚を殺す場合に実用可能な、「できるだけ苦しみが少ない方法」とは何か、に焦点を絞って書こうと思います。本当なら魚の利用にはもっと広範囲にわたる動物福祉の問題があります。釣りでは針でひっかけて魚を釣るというそもそもの問題がありますし、漁では捕獲・輸送時にも動物福祉の問題が生じます。捕獲時の網にどのようなものを選べばより福祉的か、深い海から魚を引き上げた時の温度変化による魚のストレス、圧力変化による魚の体の損傷を避けることも必要です。混獲も無用に苦しむ魚を増やすため、福祉の問題の一つです。本来なら魚種・漁法ごとにこれらも細部に至るまで検討する必要がありますが、数が多すぎるのと検証事例が見つけられないため省きます。まず大前提ですが、魚を含めた畜産動物を殺す場合には殺すという処置をする前に「気絶処理」をすることが求められています。日本も加盟する世界動物保健機関(OIE)の、水生動物衛生規約の動物福祉基準の中には「養殖魚の福祉」(第7.4章)があります。その中で次のように記載されています。一般原則として、養殖魚は屠殺される前に気絶させられるべきである。またその気絶手段は、確実に即効性があり、かつ意識喪失から確実に回復しないようにすべきである。しかし現実には、魚たちは網で引き上げられて漁船の甲板の上で窒息させられたり、冷凍庫に生きたまま放り込まれたり、料理店では生け簀から出して生きたままで腹を割かれたりしています。苦しみの少ない気絶と殺し方はじめに~魚をどんなふうに殺すのが最も苦しみが少ないのか。これはいまだ研究途上にあります。下記に書くのは実用化されており、現時点で苦しみが少ないと考えられている方法です。1.水からあげて15秒以内に気絶処理を行う。魚の場合、水から出すことが大きなストレスとなります。水中で気絶処理を行う方法として、水生麻酔薬「AQUI-S」や、水中での電気ショックがあります。前者は日本では認可されていません。後者が利用できない場合は、少なくとも水からあげて15秒以内に気絶処理を行う必要があります。魚を手作業で取り扱う場合は、濡れた手を使用するか、柔らかい濡れた手袋を着用する必要があります。2.気絶・麻酔方法方法 効果懸念AQUI-S有効成分であるイソオイゲノールを含む水生麻酔薬。食用での利用可。麻酔の有効性についてはさらなる検証が必要だが、鎮痛作用があり、活動と生理的ストレス反応を軽減させると考えられている。一部の国で使用されているが日本では認可されていない。麻酔薬の濃度、曝露時間、水温、魚のサイズと体重を慎重に検討する必要がある。手動による頭蓋骨への打撃(槌やこん棒を使う)速くて重い打撃が頭蓋骨に正しく適用されると、脳が頭蓋骨の内側に衝突し、電気的活動の混乱を引き起こし、神経と血管が損傷する。結果として脳の機能障害・破壊と血液循環の障害を引き起こし、即座に無感覚を誘発する。適切な打撃であれば意識を回復することはないと考えられるが、打撃後は回復の可能性を避けるために、すぐに放血する必要がある。そのほうが「味」も良い。手動では100%気絶させるための十分な精度を維持することは非常に困難。自動機械による頭蓋骨への打撃同上。手動よりは精度は高い。商業レベルで実用化されているが、現在利用可能な自動システムは、サーモンやマス(1kg以上)などの大型のサケ科の魚のために開発されており、これらの魚とは体型が大きく異なる魚には適さない。水中での電気ショック電量を脳に流し、脳の機能障害を起こし、短時間だけ気絶状態にする方法と、機能障害で呼吸反応が妨げられたまま、さらに電流を流して酸素不足で死に至らしめる方法の両方がある。前者の場合は意識が回復するため即時に頭蓋骨への打撃→放血処置を行う必要がある。全ての魚種、サイズに共通の電圧、周波数、電流、時間はない。そのため魚を統一する必要がある。もしその魚に不適切なパラメータが使用された場合、魚に非常に痛みを与え、効果的に気絶せず、代わりに意識を保ちながら麻痺する可能性がある。この場合、魚は痛みの反応を示すこともできないため、観察者には電気ショックが成功したのかどうかを判断することもできない。水から出して電気ショック電量を脳に流し、脳の機能障害を起こし、短時間だけ気絶状態にする。意識が回復するため即時に頭蓋骨への打撃→放血処置を行う必要がある。水中での電気ショックよりも、個々の魚に対してより一貫した効果をもたらすことが可能。同上。魚の配置場所を誤ると、不十分な気絶という結果を招く。スパイク(イケジメ)脳にスパイクを挿入することで魚を殺す。適切なイケジメが実施されれば意識を回復することはないと考えられるが、イケジメ後は回復の可能性を避けるためにすぐに放血する必要がある。手動による打撃よりも苦痛が少なく「味」も良い。魚種・サイズが異なると脳の位置も変わる。正確さが求められる。失敗率は手動による打撃のほうが低い。大量の商業利用用の機器はない頭蓋骨への打撃サーモンとマスの場合。打撃を加える位置。種によって異なる手動による頭部への打撃はUsan Salmon Fisheries Ltd(スコットランド)やAlaskan’s Own (アラスカ)などの一部の小規模漁業者が行っている。Usan Salmon Fisheries Ltdの漁の様子 4分15秒からこん棒で頭蓋骨を打撃する様子が映っている。打撃後はすぐに動かなくなる様子が分かる。暴力的だが船上で氷漬けにしたり窒息死させたりするよりマシだろう。ただ十何匹の魚が一度に引き上げられ、すべての魚を打撃するのは15秒以内では不可能であるため、打撃に至るまでの長時間魚が苦しむことは避けることができていない。自動機械による頭蓋骨への打撃を販売している会社( BAADER101 BAADER )。人が手で差し込んでいくタイプと、魚が泳ぐ行動を利用するタイプがあります。後者のほうが魚の負担は少ないです。船上で手差しによる頭蓋骨の自動打撃が使用されている例。船上では捕獲される魚種・サイズが異なるため、自動打撃システムが対応できない場合があることが課題となる。また出血後も動いている魚がいることが確認できる(1.55, 4.05, 4.55,5.05)これは魚が回復しようとしているあるいは打撃に失敗している可能性を示す。電気ショックAceAquatec社のHumaneStunner Universalユニットのような、水中で電気ショックを与え気絶させ、2-3分無意識状態にさせる機器が商業利用されています。Innovation & Investment Global Aquaculture Innovation Award 2019 finalist: Ace Aquatec Monday, 30 September 2019感電死させる場合、一部の魚は強い散発性の筋肉のけいれんを示し(けいれんは通常5分以内に止まります。このけいれんは制御されていない不規則な動きであり、意識への復帰を示すものではありません)、口の隙間やエラがフレアし、その後魚はぐったりします。魚種によって死までの時間が異なります。感電死に成功したかの判断基準は目の動きが止まる小さな筋肉のけいれん眼球運動がない魚は逆さまになる水から出して電気ショックを与えて気絶させる自動機械が、Optimar(旧Seaside)から販売されてます。船上で使用できます。Optimarの、水から出して電気ショックを与える自動機械は、ノルウェー、アイスランド、オランダ、米国、カナダの漁船に設置されています。電気ショックに続く自動鰓切断機(放血)をセットで取り付けることも可能です。FOUR STEPS THAT SAFEGUARD QUALITY AND BOOST CATCH VALUE oktober 20, 2020スパイク(イケジメ)スパイクツールを指定された領域にすばやくしっかりと挿入し、ツールを小刻みに動かして脳を破壊します。正しく実行されると、魚のヒレがフレアし、すぐに体は静止します。種ごとにスパイクの位置は異なります。こちらで種ごとのスパイクの位置を検索することができます。↓https://www.ikijime.com/55秒からスパイクの様子。位置は魚種ごとに異なるので必ずikijimeのサイトを確認してくださいニュージーランドでは「ikigun」という装置が開発され、釣り人がスパイクを簡単に使用できるようになっています。https://www.ikigun.com/残念ながら日本への発送は行われていないようですが、関心がある方はアニマルライツセンター( animalrightscenter@arcj.org )までご連絡ください。3.意識を失わせることができたのかどうかの確認方法チェック方法は種によって異なります。下記はサケとマスの場合です。意識がある意識がない眼の動き魚を回転させると、目がそれについて回る(下図参照)。魚を回転させても、目は動かない。呼吸体と呼吸器の定期的な動き(えら活動の定期的な動き)体と呼吸器の動きの停止(えら活動の停止)水泳魚は絶えず泳いでいる。動きや泳ぎはない。平衡つつくと魚は元に戻ります。魚は逆さまのまま。平衡 上の魚は意識がある。下の魚は無意識。Figure 11: Signs of recover in fish – the eye roll reflex11 Adapted from ‘Protocol for assessing brain function in fish and the effectiveness of methods to stun and kill them’. SC Kestin, JW van de Vis, DHF Robb. The Veterinary Record, March 9 2002.やってはならない殺し方1.水を奪ってそのまま窒息死、あるいは内臓を抜いて窒息死それぞれ死ぬまでにかかる時間。55〜250分(内臓を抜かなずにそのまま)25〜65分(内臓を抜いた場合)*ニシン、タラ、ホワイティング、ヒラメ、カレイの場合水揚げされた後で10時間生き残ったヒラメの実例もあります。2.氷スラリー*に浸ける氷スラリー(氷水)中で意識を失うことができるまでに9分かかると言われています。コイは氷水の中で1時間呼吸を続けます。氷水は魚を不動化させることができますが、それは無意識を意味するのではなくただ単に麻痺しているだけの可能性があります。そのため、通常の反応(逃げる行動や激しい水泳など)を意識の有無の指標とすることはできません。氷水に浸けて動かなくなったので体の切断をするというという行為は動けないけど意識のある魚を切断している可能性があります。*氷スラリー 細かく砕いた氷と水の均一な混合物。一般家庭で使用できる。商業ベースでは作成過程が複雑になる。A review of the use of ice slurry and refrigerated seawater for the killing and holding of finfish3.事前に気絶させずに放血する水から出された魚は体をばたつかせ逃げる行動を示しますが、鰓部分に切り込みを入れると、これらの反応が劇的に増加し、頭と尾が激しく揺れます。これは少なくとも30秒続き、吸う不運後にようやく動きが止まります。この動きは彼らの苦しみを表しています。4.二酸化炭素飽和水二酸化炭素飽和水(pHレベル4.5)に浸された魚の意識喪失には、7〜8分かかる場合があります。魚は、溶液に浸した後、最大2分間、頭と尾の激しい揺れを示します。その後、動きはおさまり、魚は約5分後に静止しますが、これは、無感覚ではなく倦怠感によるものです。すべての魚の意識を失わせるためには、少なくとも10分間4.5のpHレベルを維持する必要があります。時間を短縮したりpHを変更した場合、意識のあるままで屠殺される可能性があります。いずれにしても魚が苦しむ時間が長いため容認できません。5.首の斬首・首の骨折一部の魚種では、斬首または首の骨折により即時死亡(したがって最小限のストレス)が生じる可能性がありますが、他の魚種では、この方法を使用すると即時死亡しない場合があります。また、斬首は、自律神経系の働きにより、体の筋肉にストレスがかかり続けます。筋肉の動きにより乳酸が生成され、その結果「肉」がまずくなります。最後になりますが、前述したように魚が窒息するのにかかる時間は、人が溺れるのにかかる時間よりもはるかに長くなります。死ぬ前に苦しむと「味」がまずくなる、と言うのは迷信ではなく事実です。通常、魚が窒息するのにかかる時間は、人が溺れるのにかかる時間よりもはるかに長くなります。 水を奪われた魚は苦しみから逃れようと暴れ、自分の筋肉を引き裂きます。それらは乳酸を生成させ、筋肉のpHの低下をもたらし、死後硬直の発症が早くなります。屠殺前のストレスと激しい身体活動の組み合わせは、タンパク質の変性の程度を増加させます。このような魚の「肉」は即時に殺された魚の「肉」よりも海綿状になり、不味くなります。窒息させられた魚は、頭を叩かれて即殺された魚よりも1か月早く腐敗します。魚を殺して利益を得る側にとっても、できるだけ苦しめないという方法は有益です。とはいえ、毎年殺される魚は養殖と天然を含めて1-3兆匹と言われています。おそらく「人道的な屠殺」への以降は恐ろしく時間がかかります。その前に乱獲と環境破壊で海の魚はいなくなってしまいます。私たちの最良の選択は魚を食べないという選択であることは間違いありません。同時に残酷な方法で魚を屠殺している実態が分かれば、意見することも重要です。漁業、レストラン、海鮮料理店、釣り人、テレビの料理番組、YOUTUBEなどで酷い方法で魚が殺されていればその都度、なぜわざわざそのように苦しめるのかと、メールや電話、コメント欄などで意見を届けてください。魚の痛みが考慮されることの少ない社会の中で、そのような意見は社会を変える重要な一石となります。参照Reducing suffering in fisheriesHumane Harvesting of Fish HSAhttps://www.ikijime.com/How to Kill a Fish Most of the fish we eat die by asphyxiation. But there’s a better way, both for the fish and those who eat them.Health & Welfare Effect of pre-slaughter tress on quality of tilapia fillets Monday, 7 October 2019クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article''鶏は本来、平飼いされているもの''、イクミママのどうぶつドーナツはケージフリー Next Article祝!日本のケージフリー宣言企業・お店100社! 2021/02/20