粘着シート事故が浮き彫りにした 都市のアニマルウェルフェア課題

【悲劇】

またも悲しい事故がおこってしまいました。
これまでもアニマルライツセンターはネズミ捕りシートの残酷性を訴えてきましたが、被害にあった動物がみつかったのです。

今回は野鳥が被害にあいました。最初に申し上げますが、何の動物ならいい、何なら残酷だという区別があるわけでは断じてありません。それでも今回は鳥だったということからわかるのは、ネズミではなく鳥だと、シートをしかけた人間までがオロオロして、周囲に助けさえを必要とするから、残酷さが露呈するということです。

アニマルライツセンターに通報があったのは夜間で、すでに野鳥はべったりとシートに貼りついていました。その場には通報してきた本人と警察官がいました。通報者は警察にも連絡したのです。過去の記事でアニマルライツセンターが紹介している「粘着シートに貼りついた小動物を粉でレスキューする」方法を警察官も調べていました。野鳥の種類はわかりませんが、細くて繊細な羽がしっかり貼りついて、傷つけないように取るのは大変なことでした。

小一時間かけて野鳥の体をシートからはがしましたが、べたべたする粘着物は取れないままでした。鳥は警察官の指に戯れる様子もみせましたが、疲れて動くことはできないようでした。警察官は鳥獣保護法により、野鳥は保護した人のもとに置いておくことはできないと説明して、署に連れて帰り、翌朝、東京都の愛護センターに連絡すると話し、戻っていきました。

じつはその一連の様子を、粘着シートを仕掛けたと思われる人が見ていました。あまり考えずに設置したようで、思わぬ動物が貼りついてしまったことに戸惑っていました。責任感とまではいかなくても、当惑していたことは間違いありません。もしもネズミが貼りついていても、同じ気もちに陥る人のようにおもえました。

そのときはそれで解散し、それぞれの生活に戻りました。どこまでが警察責任の範疇かわかりませんが、署についてすぐに、警察官から鳥は安静にしていると連絡がありました。この事件に関わった人間はみな、この時点ではホッとしたと思います。

アニマルライツセンターのこの件の担当者は、鳥に詳しい人や経験が長い人に相談して、仮に粘着テープからはがしきっても、小さな鳥の救命は難しいと聞いていたので、警察で鳥が元気にしていると聞いたときは、奇跡が起こったと喜びました。

しかし、その夜の深夜、警察官から、鳥が動かなくなり死んだようだと、通報者は電話連絡を受けていたのでした。担当警察官は、真夜中であっても通報者に伝えなくてはと思ったのだそうです。アニマルライツセンターが、鳥の死亡を知ったのは、その翌朝のことでした。

【検証 行政の対応】

あらためて野鳥を救助したときの写真を見ると、翼の羽根が抜け、血が滲み、知見どおり助かる見込みは薄かったことがわかります。

であればやはり粘着シートという駆除方法を選択しないことが、急務だとおもいました。だからこそ、どうしてこのシートが使われることになったのかを検証したのです。

事件が起こったのは東京都23区内。都会の喧騒からほんの少しだけ離れた住宅街でした。粘着シートは道路のごみ集積所に仕掛けられていました。その区の保健所では、ネズミの発生の相談を受けると、住民に粘着シートを「サンプルとして」配布するということです。ただし今回使われたのがそのサンプルだったかどうかわかりません。保健所は「かならず自宅屋内で使うように」指導するそうですが、それは屋外だと粘着力が弱まるからということ。区では粘着シートで(ネズミの発生が)おさまらない場合、害獣駆除法人を案内します。今回の件は「シートの設置は屋内に限ると説明しているのに…」と遺憾なようで、「パッケージにも屋内使用と書いてある」と強調していました。さらに「ネズミが出入りしているかどうかの確認のための粘着シートであり、捕獲は目的ではない」ということでした。要するに、シートにネズミが貼りついていれば、それを住人が目で見て、やはりネズミがいるね、と理解するためのものだそうです。ではゴミ集積所という公共の場のときはどうすればよかったのかと尋ねると、それは清掃局に聞いてほしいということでした。

【清掃局の対応】

そこで今度は清掃局に聞くと、ゴミ集積所にネズミが発生したという連絡を受けることはかなり多いそうです。対策は土の上であれば、集積所をきれいにしたうえで、ネズミの穴を埋めてしまう。それで対応しきれないときは、駆除のために消毒薬をまく。しかしそれでも発生がおさえられないときはペストコントロール協会に相談するという話でした。

【ペストコントロール協会の対応】

公益社団法人日本ペストコントロール協会(JPCA)とは、ゴキブリ、ネズミ、ハチなど有害とされる生物の駆除、駆除業者で構成される内閣府書簡の業界団体です。全国47都道府県の協会が駆除相談やその技術の向上、社会的地位確立をめざしていると説明されています。

JPCAには動物が粘着シートに貼りついたときの対応を聞きました。協会が強調していたのは、ネズミなどの衛生動物といわれる動物が死んでしまった場合、その処理を業者に頼むと特別な費用がかかるから、自分で廃棄したほうがいいということでした。それはそうなのかもしれませんが、問題は生きたまま貼りついている場合で、そのときは「生きたままゴミとして捨てるわけにはいかないが、シートはパタンと閉じるようになっているので、そのまま放置すれば餓死する」ということでした。餓死までの時間をどう把握しているか尋ねると「ネズミは代謝が早いから、数日から10日以内」ということでした。

ネズミは餓死するまで長ければ10日苦しむ。それが事実なら、どんな動物も粘着シートにかからせたくありません。そもそも行政には粘着シートをサンプルだろうがなんだろうが、住民に安易に配ってほしくないと思います。だからもう一度、事件が起こった区の保健所に連絡して、ペストコントロール協会で聞いた話をしました。担当者は黙って話を聞いて、最後には(シートの利用を)検討しなおしてくれると言っていました。さらにアニマルライツセンターでは世界の先進的な取り組みとして、犬猫のような繁殖制限の方法が2023年からフランス・パリで始まっていたことを発信している。今回は世界都市東京の真ん中で発生しているので、行政が検討することはあながち夢物語ではないと思い、お伝えしましたが、その反応はよくわかりませんでした。しかし粘着シートありきの対処方法は検討しなおしてくれるということでした。

【命を救う方法はなかったか】

今回の事件の検証は以上です。結論は明快で、どんな目的であれ、粘着シートという動物に残酷な選択肢を使わない都市行政へ移行すべき、ということ。

後からわかったことですが、粘着シートを設置したのは集合住宅の管理人でした。ネズミの発生に対応し、住民の衛生環境を守ろうとした結果です。今回の通報者はそこの住人だからこそ、ともに責任を感じ、懸命に鳥の命を助けようとしたのかもしれません。さらに警察官もできる限りの対応をしてくれたとおもいました。ペストコントロール協会も、動物保護団体からの問い合わせに対し、あくまでネズミを餓死させたいわけでないが、その方法を取らざるを得ないのは、対応を業者に頼むと、特殊な措置のためにかなり高額な費用がかかるから、という理由をあげていました。そしてになにより、何度も何度も電話をかけてくる動物保護団体に対し、区行政は、一連の対応は制度に基づいたものだと突き放すことなく、共に考える姿勢をしめしてくれました。

つまり、この出来事を通じ、誰かがひどく冷酷だったわけではないとおもうのです。

それぞれが、それぞれの職責をまっとうし、しかもそれは誰かほかの人間のためでもありました。

しかしそれでも粘着シートは、

  • 即時に意識を失わせるわけではない
  • 迅速に苦痛を終わらせる方法でもない
  • 長期苦痛を前提とする仕組みである

これらの点において、アニマルウェルフェアの観点からは、重大かつ解決不能な問題を内包する仕組みだと、アニマルライツセンターは断言します。

もちろん行政や市民一人ひとりに、感染症に対して厳格な姿勢が求められる今日、問題解決が簡単ではないのは当然です。しかし2026年というSDGs完成の時代に、動物が餓死するのを待つという野蛮な方法が履行されてるのは、どう考えてもおかしいのです。現にこのタイプの駆除を禁止している国や地域があります。

とはいえ世間では。粘着シートが安易に乱用されているのだから、被害にあった動物を確実に救う方法をはないものか?今回の被害動物は野鳥だったので、公益財団法人日本野鳥の会に相談してみました。

野鳥の会の話では、こういった相談はよくあるらしく、理由は「シートには虫がよく貼りつくから、それを食べに来て、自分も貼りついてしまう」ということです。貼りついているネズミを食べにくる野鳥もいるそうです。そして鳥は一瞬で、粘着シートに広範囲に貼りついてしまうらしく、自分で離れることはもちろんできません。そういった鳥を見たら、やはり粉を使ってはがしてあげて、体に残った粘着物は食用油で拭いとってあげる。そのあと中性洗剤で洗ってよいとのこと。その後、段ボール箱などに安静にして、ペットボトルにお湯をいれたもので箱内を「保温」してあげる。ここまでの作業で羽根はかなり抜け落ちてしまいますが、しっかり保温してあげられたら、かなりの率で救命でき、抜けた羽はいずれ生えそろうのだそうです。お話くださった野鳥の会の方が「鳥は体温が高いから、人間が少し熱いと思うぐらいのお湯がいい」とおっしゃっていました。

【まとめ】

今回の事件で、野鳥の命を救えなかったことは非常に残念でした。通報してくださった方も、現場で対応にあたった警察官も、深い悲しみを抱くことになりました。しかし私たちは、この出来事を単なる「不運な事故」として終わらせるのではなく、事件後に丹念な検証を行い、この問題に関わる人々の見解を聞く機会を得ました。

検証を通じて、日本野鳥の会の担当者も、そしてアニマルライツセンターも、粘着シートという方法が動物に長期の苦痛を与えるものであり、見直されるべきだという方向を共有していることがわかりました。

また、アニマルライツセンターでは毒餌も同様に残酷な手段であると考えています。今回の検証をきっかけに、より苦痛を最小化する方法として電気で脳震盪を起こさせる箱罠の存在や、パリで進められている繁殖制限の取り組みについて、野鳥の会と情報交換を行うこともできました。

同会によれば、粘着シートにかかるのは「衛生動物」とされるネズミだけではなく、野ネズミなど本来対象とされていない動物も数多く含まれるそうです。被害は目に見えにくいところで広がっています。

こうした出来事を感情的な種差別の問題として捉えるのではなく、制度のほころびとして冷静に検証し、社会の仕組みを変えるきっかけにしていくことが、困難な現状を動かす手段になるはずです。

最後に、動物保護団体からの問い合わせとはすなわち、動物の立場を代弁する言葉ですから、そういう言葉はできるだけ耳にしたくないだろう組織の方とも、お話をさせていただきました。結果的にみなさんが、できるかぎりの誠実な対応をしてくれたと思います。だからこそわたしたちは、今回の対話から見えたことを、次の段階につなげなければなりません。動物の苦しみを減らす世界の実現のために、アニマルライツセンターは今後も、粘着シートに頼らない都市衛生のあり方を求め、活動を進めていきます。

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