マッコウクジラにおけるコーダ母音の音韻論

論文概要

 

マッコウクジラ Physeter macrocephalus は、「コーダ」と呼ばれるクリック音の連鎖を用いてコミュニケーションをとる。従来の研究では、マッコウクジラのコーダが音響学的に人間の母音に類似していることが示されてきた。コーダには「a-コーダ」と「i-コーダ」という2つの異なる質的カテゴリーがあるとされ、これらはコーダを構成するフォルマントの数によって区別される。

本稿では、マッコウクジラのコーダが音響学的に人間の母音に類似しているだけでなく、言語機能に関する複数の次元において人間の母音に類似したパターンがあることを実証する。第一に、2種類のコーダはこれまでフォルマントの数とタイミングに基づいて分類されてきたが、これらはコーダ母音のaとiと相関関係にある。第二に、a-コーダは一般にi-コーダよりも長い。第三に、i-コーダの持続時間は二峰性分布を示し、持続時間が短いi-コーダと長いī-コーダには明瞭な違いが見られる。第四に、コーダの連鎖において基準となる長さは個体によって異なる。第五に、冒頭のクリックがコーダと一致しない場合、隣接するコーダと一致することが多く、これはヒトの言語で見られる調音結合 coarticulation に類似した現象である。

これら5つの特性はいずれもヒトの言語における音声・音韻の特性と極めて近く、人類とは独立した進化過程を取ったことを示唆している。マッコウクジラにおけるコーダの発声は従って極めて複雑であり、これまで分析された動物のコミュニケーションシステムの中でヒトの音韻処理機能に最も類似した例の一つである。

 

原文タイトル:The phonology of sperm whale coda vowels

論文著者:Gašper Beguš, Maksymilian Dąbkowski, Ronald L Sprouse, David F Gruber, Shane Gero

公開日: 2026/04/15 

論文URL:https://doi.org/10.1098/rspb.2025.2994

別のFACTを探す