論文概要
米国で販売されるサメ製品の多くは表示が不明確であり、生物保全上の課題となっていると同時に、人の健康にもリスクをもたらしている。
漁業によって、世界のサメの個体数は大幅に減少してきた。現在、世界のサメ種の3分の1が絶滅の危機にある。歴史的には、ひれを切り取る「シャークフィニング」が主な脅威だったが、2000年代初頭以降、サメ肉の世界市場も着実に拡大している。
サメのひれは、中国、香港、台湾、シンガポール、マレーシア、ベトナムなどのアジア諸国・地域で広く食べられている。一方、サメ肉は南米と欧州、とりわけイタリア、ブラジル、ウルグアイ、スペインで人気がある。これらの地域では、絶滅危惧種ではないサメを使った製品が合法的に販売されることが多いものの、表示は通常、不明確だ。そのため、多くの消費者は、サメや絶滅危惧種のサメを食べていることに気づいていない。例えば、ある研究では、サメ肉を食べたペルー人の77.5%が、それがサメだと認識していなかった。不明確な表示はサメの保全を妨げ、サメ肉の摂取が健康に及ぼす影響の研究も難しくしている。
この研究では、米国で販売されるサメ肉がどの種に由来するかを調査している。研究者らはDNA検査を用い、サメ肉製品が実際にはどの種から作られているのか、また、その種が保全上の懸念対象であるかを明らかにすることを目指した。
研究チームは2021年9月から2022年9月にかけて、鮮魚市場、食料品店、アジア食材店、オンライン販売店などからサメ製品30点を収集した。製品は、生のサメの切り身とサメジャーキー(塩漬けにし、味付けして乾燥させたサメ肉)の2種類に大別された。生肉製品はすべて米国東海岸で購入された。内訳は、生のサメの切り身19検体、サメジャーキー11検体だった。その後、研究者らは標準的なDNAバーコーディング技術を用いて、各製品のサメの種を特定した。
ほぼすべての製品で表示が曖昧、または誤っていた
30検体のうち1検体を除くすべてで、サメの種を特定できた。種を特定できた29検体のうち、27検体(93%)は表示が曖昧だった。例えば、単に「サメ」と表示されていたり、複数の種を指す「マコシャーク」のような名称が使われていたりした。この中には、ジャーキー製品10点と生肉製品17点が含まれていた。
具体的な種名が表示されていた製品は2点だけで、いずれも生肉だった。しかし、そのうち1点は誤表示であり、カマストガリザメとして販売されていたものが、実際にはアオザメだった。もう1点はカマストガリザメの製品で、正しく表示されていた。
絶滅リスクのある種が多数検出された
計11種が特定され、そのうち3種は国際自然保護連合(IUCN)によって深刻な危機(Critically Endangered)に分類されていた。これらは、イコクエイラクブカ(3検体)、ヒラシュモクザメ(1検体)、アカシュモクザメ(1検体)だった。危機(Endangered)に分類されるアオザメは、4検体で確認された。また、危急(Vulnerable)に分類される4種、すなわちマオナガ(3検体)、カマストガリザメ(2検体)、ハナザメ(2検体)、レモンザメ(1検体)も確認された。全体では、種を特定できた製品の59%(29点中17点)に、絶滅の危機にある種が含まれていた。
残りの種は、準絶滅危惧(Near Threatened)または低懸念(Least Concern)に分類されていた。準絶滅危惧に該当したのは、ダスキー・スムースハウンド(dusky smooth-hound shark:6検体)とカリフォルニアカスザメ(3検体)で、低懸念に該当したのはニシヒラガシラ(3検体)だった。
不明確な表示が問題となる理由
本研究で分析した製品は30点だけであり、標本数は非常に少なかった。加えて、生肉製品はすべて東海岸で購入されたため、研究結果を米国の他の地域にどこまで適用できるかには限界がある可能性がある。より大規模で、地理的な代表性の高い研究を行えば、問題の規模をさらに詳しく把握できるだろう。
それでも、曖昧で不正確な表示によって、消費者が自分の食べているものを把握できないことは明らかだ。この状況は、水銀、ヒ素、その他の重金属による中毒のリスクに消費者をさらす可能性がある。例えば、本研究の2検体で確認された大型のシュモクザメ類は、肉やひれの水銀濃度が高い傾向があり、摂取を避けるよう勧告されている。同時に、不明確な表示は、絶滅の危機にあるサメが気づかれないまま市場に流入することを許してしまう。種ごとの状況を追跡することが難しくなり、絶滅リスクの高い個体群の減少が見過ごされるおそれがある。
これらの結果を踏まえ、サメ製品には種ごとの明確な表示を導入しなければならない。米国では、まず食品医薬品局(FDA)の対応が必要だ。同局の「Seafood List(水産食品リスト)」は、現時点ではサメの種を総称の「サメ」で販売することを認めている。欧州連合(EU)の、より詳細な水産食品表示規則は、参考となるモデルの一つだ。本研究で用いたDNAバーコーディングのような遺伝子検査も、実際に販売されている種を明らかにするうえで重要だ。絶滅の危機にあるサメが違法に市場へ流入しているかどうかの判定にも役立つ可能性があり、法執行を支援できる。当面は表示を信頼できないため、保護活動に取り組む人々は、食料品店、鮮魚市場、オンライン販売店にサメ製品の販売を中止するよう働きかけることができる。また、消費者に購入しないよう呼びかけることもできる。
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
原文タイトル:Sale of critically endangered sharks in the United States
論文著者:Ryburn, S. J., Yu, T., Ong, K. J., Wisely, E., Alston, M. A., Howie, E., LeRoy, P., Giang, S. E., Ball, W., Benton, J., Calhoun, R., Favreau, I., Gutierrez, A., Hallac, K., Hanson, D., Hibbard, T., Loflin, B., Lopez, J., Mock, G., … Bruno, J. F.
公開日: 2025/09/10

