FAO「持続可能な畜産への転換世界行動計画」―動物福祉は17の戦略的優先事項の一つ

2026年7月、国連食糧農業機関(FAO)の農業委員会(COAG)は、Global Plan of Action for Sustainable Livestock Transformation(持続可能な畜産への転換に向けた世界行動計画、以下GPA)を承認しました。

GPAは、持続可能な畜産への転換に特化してFAO加盟国間で交渉された、初めての世界的な枠組みです。法的拘束力を持つ条約ではなく、自主的(voluntary)、非拘束的(non-binding)、各国主導(country-driven)の計画ですが、FAO加盟国にはGPAをもとに、各国の状況に応じた国別行動計画(national plans of action)または同等の政策手段を策定・適応することが促されています。FAO畜産小委員会は今後、GPAの実施状況や傾向を定期的にレビューするとしています。

GPAは、次の4つを「優先分野(Priority Areas)」に据えています。

  1. 食料安全保障、栄養、健康的な食生活
  2. より良い生計と包摂的な経済成長
  3. One Healthアプローチを通じた動物の健康
  4. 天然資源の利用、気候変動対策、生物多様性

この4分野の下に17の戦略的優先事項(Strategic Priorities)と85のアクションが設定されています。

アニマルウェルフェアは第3分野「One Healthアプローチを通じた動物の健康」に含まれます。

  • SP 3.1 動物疾病の予防・管理
  • SP 3.2 畜産における抗菌薬の慎重かつ責任ある使用
  • SP 3.3 畜産部門におけるアニマルウェルフェアの推進

アニマルウェルフェアは85のアクションの中の一項目として付け足されているのではなく、17の戦略的優先事項の一つとして独立して位置づけられています。

GPAはアニマルウェルフェアの捉え方

GPAは、良好なアニマルウェルフェアの実践として、単に疾病を防ぐことだけを挙げているわけではありません。本文では、

  • 疾病や傷害の予防・治療
  • 痛み、苦痛、その他のネガティブな状態の防止・軽減
  • 適切で安全な水と飼料へのアクセス
  • 動物のニーズと本性に適した生活環境(living conditions that are suited to the needs and nature of animals)

を挙げています。

「病気でなければよい」「死亡率が低ければよい」「生産性が高ければよい」という考え方ではなく、どのような環境で飼育され、動物がどのような状態で生きるのかまでアニマルウェルフェアの対象としています。

5つの具体的アクション

GPAのSP 3.3には、5つのアクションがあります。

3.3.1
畜産生産の持続可能性に対するアニマルウェルフェアの複数の便益について認識を高める。

3.3.2
具体的な規定が存在する場合には、WOAH(世界動物保健機関)の陸生動物衛生コードに沿って、アニマルウェルフェアを推進する政策枠組みを策定・実施する。

3.3.3
生産、輸送、作業、屠殺および屠殺以外の殺処分における、それぞれの状況に適した良好なアニマルウェルフェア実践について情報を記録・共有し、その実施を促進する。

3.3.4
アニマルウェルフェア措置の実施に伴う外部性について研究する。

3.3.5
地域のニーズや状況を考慮しながら、農場レベルのアニマルウェルフェア認証制度の利用を促進する。

妊娠ストール―WOAHは妊娠豚の群飼を推奨

WOAHの「豚の生産システムにおけるアニマルウェルフェア」Chapter 7.13では、

母豚や未経産豚は他の豚と同様に社会的動物であり、群れで生活することを好むため、妊娠母豚・未経産豚はできる限り群飼されるべきである

とされています。

また、個別豚房(妊娠ストール)についても、

豚を個別豚房で飼養するのは必要な場合に限るべき

としています。

WOAHは現在、妊娠ストールそのものを全面禁止しているわけではありません。しかし、妊娠豚について群飼を望ましい方式とし、個別飼育は必要な場合に限るという方向は明確です。

GPAが各国にWOAH基準に沿った政策枠組みの策定・実施を求めた以上、妊娠ストールの削減・廃止に向けた政策は、この国際的な流れから切り離して考えることはできません。

ブロイラーの飼育密度―WOAHは密度そのものを福祉問題として扱う

ブロイラーについても、WOAHには「ブロイラー生産システムにおけるアニマルウェルフェア」Chapter 7.10があります。

WOAHは、ブロイラーの飼育密度について、

飼料や水にアクセスでき、正常に移動し、通常の姿勢を取ることのできる密度で飼育すべき

としています。

密度を決める際には、鶏舎、換気、敷料、環境条件、遺伝系統、出荷時の日齢や体重なども考慮しなければならないとしています。

WOAHは33kg/㎡などの具体的な数値上限までは定めていないため、GPAから特定の密度数値を直接導くことはできませんが、少なくとも、飼育密度はアニマルウェルフェア政策として扱わなければならない問題であることは明確です。

屠殺時の事前スタニング―WOAHの規定はさらに具体的

屠殺についてはさらに明確です。

GPAのAction 3.3.3自体が、アニマルウェルフェアを実施すべき場面として「slaughter(屠殺)」を明示しています。

そしてWOAH Chapter 7.5「Animal welfare during slaughter」では、家畜の搬入、待機、取り扱い、拘束、スタニング、放血まで具体的な基準が定められています。家禽も対象です。

特に家禽では、意識のある鶏を逆さ吊りして電気水浴スタニングを行う方式について、

  • 意識のある状態での逆さ吊り
  • シャックリングによる痛み・恐怖
  • 水浴槽に頭が入る前に翼などが接触する「pre-stun shock」
  • 個体差による電流のばらつき
  • 不十分な電流による、意識を失わせないままの麻痺

などをアニマルウェルフェア上の危険として挙げています。

そのうえでWOAHは、

意識のある動物の取り扱い、逆さ吊り、シャックリングを避けるスタニング方法を常に優先すべき

としています。

また電気水浴方式についても、その方式に内在するリスクを避けられる代替スタニング方式を優先すべきとしています。

日本の家禽処理では、そもそも事前スタニングを実施していない施設も多く残っています。GPAを国内で実施するというのであれば、こうしたWOAHの屠殺基準を日本の政策、施設整備、補助制度に具体的に反映させる必要があります。

欠けている採卵鶏

一方で、WOAHの基準には大きな問題があります。いまだに採卵鶏の飼養システムについて採択済みの独立した章がありません。

これは、採卵鶏について科学的知見がなかったからではありません。WOAH(当時OIE)は2016年から専門家会合を開き、「Animal welfare and laying hen production systems」Chapter 7.Zという基準案を実際に策定していました。日本でもこの規約案を巡って、養鶏業界が農林水産大臣に賄賂を送り有罪判決を受けています。

そこでは、採卵鶏の重要な行動上のニーズとして、

  • 砂浴び
  • 採食・探索行動
  • 巣箱
  • 止まり木

などが議論されました。WOAHの専門家グループは、これらの行動面を重視しすぎているという加盟国からの批判に対しても、行動は健康や感情状態、正常な生活という複数のアニマルウェルフェア概念に関係するものだとして、その科学的根拠を説明しています。

ところが、この国際基準は2021年のWOAH総会で採択されませんでした。採決は、賛成53、反対41、棄権22。採択に必要な3分の2に達しませんでした。

興味深いことに、反対した国の理由は一方向ではありませんでした。

EU加盟国の多くは、むしろ案が弱すぎるとして反対しました。十分な運動空間、砂浴びや採食のための敷料、巣、止まり木などについて「desirable(望ましい)」にとどめず、「should(すべき)」とすることを求めていました。

一方で、別の国々は既存の生産方式への影響を懸念し、さらにゆるい規定を求めました。日本も、この策定過程で非常に具体的なコメントを提出しています。日本政府は、卵を生食する文化、温暖湿潤な気候、土地の狭さなどを挙げ、(全く科学的な論拠にはならない上、温暖湿潤だからこそケージ飼育のような密を廃止する必要がある)

“diverse production systems should be accepted”

すなわち、多様な生産方式が認められるべきだとして、国際基準に「柔軟性」を持たせるよう繰り返し求めました。つまり、ケージ飼育がWOAHの基準から外れないよう、必死に何度も、だけど多少遠回しに主張を続けたのです。

最終的に日本は2021年の採決では基準案の採択に賛成しました。しかし、採択そのものが成立せず、現在まで採卵鶏の生産システムについてWOAHの正式な国際基準が存在しない状態が続いています。朗報としては、2021年時点より、世界は格段にケージフリーに近づいており、米国も約半数がケージフリーになり、反対した南米諸国でもケージフリーコミットメントが盛んになり、インドネシアは政府がケージフリーを推奨する立場になり、中国も大型ケージフリー鶏舎が次々作られていき業界がケージフリーを取り入れているという状況に変わったということです。つまり、時間が経てば経つほど、高いアニマルウェルフェアの規約案が通りやすい環境が作られるということです。

FAO自身も「アニマルウェルフェアは持続可能な畜産の中心」と位置づける

2026年2月、FAOがホストするGlobal Agenda for Sustainable Livestock(GASL)は、FAO、WOAH、AMR関係者らによるアニマルウェルフェアの国際会合を開催しました。

そのまとめでは、

“Animal welfare is both a goal and a mechanism for sustainable livestock systems.”
アニマルウェルフェアはゴールであり持続可能な畜産システムのための手段である

アニマルウェルフェアは持続可能な畜産システムの「目標」であると同時に、それを実現するための「手段」であると整理されています。

さらにFAOの担当者は、各国が持続可能性、生産性、気候、食料安全保障に取り組む際、アニマルウェルフェアを別個の問題として扱うのではなく、その中心的な要素として扱うべきだと述べています。

GPAでアニマルウェルフェアが独立した優先的戦略になったことは、この流れの中で見る必要があります。

必要なのは「一部の良い事例」ではなく、悪い仕組みをなくす底上げ

GPAでアニマルウェルフェアが17の戦略的優先事項の一つに位置づけられ、さらにWOAH基準に沿った政策枠組みを各国に求めたことを、アニマルライツセンターは重要な前進だと考えます。

持続可能性を実現するために必要なのは、一部の優良農場や一部の企業だけを評価することではありません。必要なのは、最低水準そのものを引き上げ、著しく動物を苦しませる飼育や屠殺方法を社会全体からなくしていくことです。

日本政府が2023年に作ったアニマルウェルフェアに関する飼養管理指針は、基本的にはWOAHの規約を反映しています。採卵鶏はドラフト段階だったものを採用したことは評価に値します。

しかし、実効性、強制力がありません。政府は守るためのマイルストーンと目標を起きましたが、非常に低い目標であるという残念な内容になり、業界が大した努力をしないという意思であることが明白になりました。

現在実施が推奨される事項のみを、低い目標値で設定しただけであり、ましてや将来実施が推奨される事項については白紙です。日本政府は、やって当たり前のことに長々とマイルストーンを設定するのではなく、生産者にとっても社会にとっても挑戦になりうる”将来的に実施が推奨される事項”にこそ、マイルストーンを設定し、税金を投入するべきです。

いま必要なのは、より高く、より早くアニマルウェルフェアの高い持続可能な畜産に移行するために、高い基準を示すことです。

そして政府が最低基準を引き上げる一方で、企業にはその最低基準を上回ることが求められます。国際基準や国内基準に従っただけで「先進企業」「アニマルウェルフェアに配慮した企業」と評価するべきではありません。それは、本来すべての事業者が満たすべき最低ラインだからです。

アニマルウェルフェア政策で本当に重要なのは「良いものを少し増やす」ことではありません。

悪い状態を減らし、最終的にはなくすこと。
最低水準を社会全体で(少なくとも動物が地面を走り回れる状態まで)底上げし、苦痛の大きな飼育・輸送・屠殺方法を残さないこと。

一部に高水準の事例が存在していても、同時に極めて低い水準の飼育が大量に残り続けるのであれば、悪い影響は変わらないままなのです。

有害な影響を社会全体から継続的に減らし、最終的になくしていくこと。アニマルウェルフェアはその発想に立った政策転換が必要です。


FAO, Global Plan of Action for Sustainable Livestock Transformation
FAO:Draft Global Plan of Action for Sustainable Livestock Transformation (COAG/4/2026/2)

FAO, “FAO’s Global Plan of Action for Sustainable Livestock Transformation is approved”, 23 July 2026
FAO:Global Plan承認発表

FAO / Global Agenda for Sustainable Livestock, “Sustainable livestock transformation: animal welfare solutions for resilient agrifood systems”, February 2026
FAO/GASL:Animal welfare solutions for resilient agrifood systems

WOAH, Terrestrial Animal Health Code, Chapter 7.13, Animal welfare and pig production systems
WOAH:豚の生産システムとアニマルウェルフェア

WOAH, Terrestrial Animal Health Code, Chapter 7.10, Animal welfare and broiler chicken production systems
WOAH:ブロイラー生産システムとアニマルウェルフェア

WOAH, Terrestrial Animal Health Code, Chapter 7.5, Animal welfare during slaughter
WOAH:屠殺時のアニマルウェルフェア

WOAH/OIE, Japan comments on Draft Chapter 7.Z, Animal welfare and laying hen production systems
WOAH:採卵鶏基準案に対する日本政府コメント

WOAH/OIE, Final Report of the 88th General Session, May 2021
WOAH:2021年総会最終報告書―採卵鶏基準案の採決結果