串原養豚:「豚で暮らす」から「豚と暮らす」への意識変化

意識が変わり、豚たちが豊かな関係性を築く環境を楽しみながら様々な課題克服に挑む串原養豚さん・ゴーバルさん

岐阜県恵那市串原地区で、養豚を営む串原養豚の石原弦さんとその出荷先で加工販売を行っている山のハム工房ゴーバルの田中亮太さん。
2019年の豚コレラで全頭殺処分になり再稼働するのを機に、動物が精神的・肉体的に充実した健康で幸福である環境を整えることを目指したアニマルウェルフェアに本格的に取り組み始めました。現在、母豚約50頭とその子豚たち約500頭に日々向き合い寄り添う飼育に取り組む石原さんと、その先の加工販売で消費者の心に届く味を目指した商品作りを心がけている田中さんにお話を伺いました。

Q:取り組んでみて一番良かったと感じるのはどんなところでしょうか

A:石原さん
妊娠ストールをやめて群れでの生活になったことで豚の個性がでて、人とも豚同士の関係性もすごく豊かになったなと見ていて思います。20年ほど養豚に携わり、この飼育方法に変えてから7年ほどたちますが、私自身の中でも「豚で暮らす」から「豚と暮らす」に意識が変わったこと、「管理する」から「ケアする」に気持ちが変わったことはよかったなと思うし、以前の飼育方法より楽しいし面白いです。
反面、個性が発揮されることで問題が出てくるところはありますが、日々豚たちと暮らす中で改善策を模索検討しながら取り組んでいます。

Q:なぜ挑むことができたのでしょうか

A:石原さん
ゴーバルさんと組んで生産者と消費者をつなぐ仕組みができていたからだと思います。生産者側だけでやろうとしてもできないと思うし消費者がこういうものが欲しいといっても、やはり生産から消費者まで一体になって取り組まないと多分できないと思うのでそこが大きいなと感じます。

愛おしげに豚と接する石原さん
串原養豚 石原 弦さん
Q:妊娠ストールだけではなく分娩ストールも廃止されたんですね

A:石原さん
母豚に「巣作り」させてやりたいと思い、取り組みはじめました。
(豚は藁などを使って巣作りする習性があります)

【妊娠ストールとは】
 種付け後から約114日間の妊娠期間を過ごす檻のこと。
 出産前に分娩ストールへ移動させられる。
【分娩ストールとは】
 出産から授乳中の21〜28日間、母豚を拘束する檻のこと。
どちらも母豚が方向転換ができないほど狭く世界では徐々に廃止に向かっている が、日本の養豚では一般的に使用されている。

妊娠豚房の様子1
柵の手前には、小さな豚房があり、発情期の豚・雄豚・繁殖育成豚・体調不良の豚の為に使用します
妊娠豚房の様子 2
Q:しっぽ切りを無くすための工夫とは?

(豚は、ストレスで仲間のしっぽをかむクセがあるため多くの農場ではあらかじめしっぽを切っています/無麻酔)

A:石原さん
出産後10日程は母豚と子豚たちだけで過ごさせてやり、2週間目程で同じ時期に産まれた子豚たちと母豚を広いスペースに移して共同保育してもらっています。
この形にした発想の原点には、「どうしたらしっぽを切らなくて済むか」が頭にありました。
なぜかむかといえばストレスで、子豚の最大のストレスは「本当ならもっと母豚と一緒にいたい時期に離乳してしまうこと」だと考え、哺乳期間を7週齢と長めにしました。それで今では97%くらいはうまくいっていると感じています。
それでも3%くらいは、かじってしまう個体もいてその場合は、藁やチェーンなどを与えてやって退屈をまぎらわせるようにしています。それでもまだ収まらない場合もあって、その時は「かじる個体」もしくは「かじられる個体」を隔離したりして個別に対応しています。
以前、通常通り生後4週間で離乳してしっぽを切らずに子豚たちだけで育てた時に、遊び道具になるチェーンを与えるなどいろいろやってみましたが、しっぽをかむのが頻発してしまいどうにもならないくらい大失敗した経験から、やはり「哺乳期間に母豚と一緒に過ごす時間をきちんと設けてやること」と「哺乳期間に他の母豚や子豚たちと一緒にしてやること」が一番大きな対策だと感じています。

その後の肥育スペースも、推奨されている2倍の広さをとっているので割と行動もできる環境で、かじられようとしても逃げられたり、「踏み込み式」という敷料もかなり厚く敷いた所なので鼻で穴を掘りたいという豚の強い欲求も発散できる環境にしています。

肥育房 前期 : 離乳(7週齢)から4ヶ月齢まで
肥育房 後期 : 4ヶ月齢から出荷まで
Q:数値化できない価値こそ大切に

A:石原さん
環境負荷も大きく資源と資本さえあればどこまでも増やしていける「大量生産」を目的とした現在の畜産業の生産過程には、豚の苦痛や痛みを伴うものもいくつかあって、それを少しでもなくす事の方に興味と面白みを感じます。
1母豚あたり年間何頭出荷できるかとか事故率が何%とか目標を目指すわけだけど、全部データだから、生産方式にしても考え方にしてもすぐ直線的になるというか、生産効率を最大限化する仕組みになってしまっていて、そこに「生産効率だけではなく、もっとアニマルウェルフェアを取り入れるべきではないか」と声をあげる人が入りにくい環境になってしまっているなとは思います。
数値では計れないところも大事にしておかないといけないのではないかなと思っています。

Q:職人として探究心を持ち向き合う

A:田中さん
僕は養豚の育てている先の加工や販売に関わっているので、まずおいしさを考えるんです。「おいしい」と興味を持ってもらわないと始まらないですからね。
通常は「餌で味は変わる」って考え方で、実際に変わるんだけど、弦くんが「動ける飼育」に変えて筋肉が発達してお肉がおいしくなったんだよね。
ハム作りに関しても、効率を追うだけでは楽しくないし、何を大事にするかを心に持っているのはすごく大切なことだと思っています。「こういう飼い方だから美味しいんだ」と背景を知りたくなるような、心に届く味にしたいです。

山のハム工房 ゴーバル 田中 亮太さん
Q:アニマルウェルフェアを取り入れた経営が継続して成り立っている秘訣は?

A:石原さん 田中さん
「ごまかしたりしない」そこが一番大変であり苦労するところでもあり「持続可能」であるかの鍵をにぎっているのではないかと思います。
「何を大事にしてなぜ取り組んでいるのか」をきちんとお客さんに伝えて納得してもらうこと。
「伝える役割」が重要であり、作る側とそれを買う消費者とをうまくつなぐ仕組みが言葉の役割にあるかなと思います。

A:石原さん
あとは、その畜産のシステム自体が社会の縮図みたいなところや相似関係があるなと感じています。そういう面でも、いろんな価値観や生き方があるということをお互い認め合うような社会であって欲しいと思うので、そうであるならば生産効率を
最大限化する量的な考え方にとらわれないようなシステムになって、アニマルウェルフェアとかそういうゆとりのある飼育に取り組む人が増えたら嬉しいなと思います。
養豚には、3つの側面があって、1つ目は「豚肉を作ること」、2つ目は「豚という生き物を飼うこと」、3つ目は「その豚を飼育するシステム自体を設計すること」で、今の工場式畜産は「豚肉を作る」という点では、凄く上手に洗練されていると思います。しかし豚が本当に好きな人が楽しめるかどうかというと、多分もっと豚たちが豊かな関係性をもつ環境で働いた方がきっと楽しいだろうなと思います。
飼育する人のことを考えたらやっぱり私自身も、前の飼い方と比べて今の方が楽しいので、豚が好きな人に広まればいいなと思っています。

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畜産高校の学生・畜産関係者向け

新しい取り組みにも挑んでいる石原さん・田中さんの以前の飼育方法から現在の飼育方法の取り組み内容に触れる貴重なお話

以前の飼育方法から現在の飼育方法の取り組み内容についての詳しいお話 – 認定NPO法人アニマルライツセンター