アニマルウェルフェア、アニマルライツ、双方ともに日本の進みは遅い。それでも着実に進展していて、この進展は加速されて然るべきものだ。欧米はともかくとしても周辺アジア諸国でも進んでいて、止まっていたら経済も健康も生物多様性も気候変動もすべての面で悪影響を受ける。アニマルライツセンターは企業との交渉を継続してきており、これもまた他国と比べれば進みは驚くほど遅かったとしても10年前と比べると様変わりした。活動を続けてきて、全く動かなくなるときがくる。それは属人的なものがほとんどであり、その担当者がいなくなると動き出すなんてことが多々起きてきた。一体どのような人が壁になるのか。動物にシンパシーがある人こそ壁になるアニマルライツセンターの記事でこのことを書く理由は、そのような人たちが比較的近しい人である傾向だからだ。企業と話をしようとアポイントを取ってみると、担当者がアニマルフレンドリーであることがある。例えば「実は私もほとんどヴィーガンなんです」「日頃の生活はみなさんとおなじです」「サイトを見たことがあります」「ベジタリアンなのでこの近くのお店教えましょうか」「保護猫の活動しています」などという人に出会う。思わず喜んだりして、話を進めてみると、全く進まない。気がついてみたら、その人が企業の防波堤となり、話をする時間はすべて無駄となる。幸い企業は部署変更が定期的に行われるため、担当者は変わる。すると、何の引き継ぎもされないまま、消えていったことに気がつく。そして新しい担当者に私達は「御社はお取り組みが遅れている企業です」と通告せざるを得なくなり、慌てて進めることになったりする。数年を無駄にするこの防波堤となるアニマルフレンドリー担当者。その心理は以下のようなものに起因する。自己検閲(Self-Censorship)自分の意見や信念を表明することができるにも関わらず、「これは受け入れられないかもしれない」と事前に自分で判断をしてしまい、発言を控えてしまうことだ。つまりよくある”忖度”だ。企業文化や同僚、上司の反応を気にして、アニマルウェルフェアの推進を遠慮してしまう。フォールス・コンセンサス効果(False Consensus Effect)実際には動物福祉に関心がある人が社内にいる可能性があるのに、「どうせ誰も賛成しない」と決めつけてしまう心理だ。アニマルウェルフェアの問題は数年前は会社の中で誰も知らなかったような課題だ。だから、この心理は起きやすい。ずっと誰も賛成もしてこなかっただろうし、むしろ話題にのぼったことがない環境で過ごしてきたからこそ、アニマルウェルフェアの話に自分が納得したとしても、これは自分が昔から動物のことを考えているから納得しているだけで周囲は以前と変わらず賛同しないと決めつける。そして何も行動しないままになる。実際には、アニマルウェルフェアについて日本では認知が進んでいなかっただけで、食品企業は取り組まなくてはならない課題となっているし、他の企業も取り組みが始まっているのだが、この思い込みは解けにくい。それだけ肩身の狭い思いをしてきたのかもしれないが、アニマルライツセンターからすれば、このような担当者の思い込みを解く作業から入るよりも、反感を抱いているくらいの担当者と話をするほうが話が早いのだ。実行抑制(Action Inertia)アニマルフレンドリーな人に限らず、多くの担当者で見られる心理だが、別の心理状態として「現状を変えようとしても無駄だ」と感じて行動を起こさない抑制状態もある。社風や会社の伝統やルール、これまでのビジネスだけを優先し「どうせ変わらない」と思い込み、動きが取れない。だが、一方で、「ヴィーガンなんです」「平飼い買ってます」等と言ってくれる担当者の中にはものすごい味方になってくれる人もいる。つまり、これらの心理的抑圧が発動する人と、そうでない人がいるのだ。上記の心理的抑圧にはまり込んでしまう人は、以下のような別の内面的要因を持っている可能性がある。ステレオタイプの内面化(Internalized Stereotyping)「動物のことを主張したらバカにされるかも」「過激だと思われるかも」といった社会的なイメージを内面化してしまい、自ら意見を抑制してしまう心理だ。自己効力感の欠如(Low Self-Efficacy)「自分が何を言っても変わらない」「大企業の方針は変えられない」という無力感を抱くことで、行動を起こさない心理状態も大きい。企業内での影響力を過小評価し、積極的な提案を避けてしまうのだ。企業文化や社会的プレッシャーを過度に忖度してしまい、本来できることをやらない、あるいは進めにくいと感じる場合、これらの心理的なメカニズムが働いている可能性がある。同時に、自分の立場(たまたま自分が担当であるという立場)を利用し、社内を説得することを避けるというより怠惰な心理も働く。企業だけでなく、行政でも同じ現象を見てきた。双方とも多くの場合は担当が変わっていくので、夜明けは来るのだが、変わらない場合は悲劇だ。その企業にとっても、アニマルウェルフェアのリスクを肥大させていくことになり、かつ、動物にとっては大きな改善の機会を失うのだ。クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Articleアニマルライツチャンネルvol61[宗教は動物を利するのか、害するのか] No Newer Articles 2025/01/31