OIE(世界動物保健機関)水生動物衛生規約「養殖魚の福祉」(CHAPTER 7)のなかで、福祉的な養殖魚の扱い・輸送・屠殺・殺処分の方法について規定しています。水生動物衛生規約 第7部 養殖魚の福祉OIEの「養殖魚の福祉」には、畜産会社や運送会社は、輸送に携わる人員に魚の福祉の訓練を提供する必要があること輸送中に魚を殺さなければならない緊急時に備えて、人道的に殺すための緊急時計画を立てること積み込みの際に魚に怪我をさせたり不要なストレスを与えないために取り組むべき課題魚を屠殺する前に気絶させること。気絶手段は、確実に即効性があり、かつ意識喪失から確実に回復しないようにすべきであること、その方法、また推奨されない屠殺方法について生け簀はストレスのないデザインにすることなど、細かく規定されています。EUリスボン条約2008 年のリスボン条約(2009 年12月1日に発効)では,EU機能条約本体に動物福祉が追加され(それまでは条約に付帯する形であった)、その対象となる分野には漁業も含まれました。つまりEUの加盟国は魚の福祉に配慮しなければならないと、条約に明記されています。第 13 条農業,漁業,運輸,域内市場,研究,工業技術開発,宇宙に関する連合の政策形成および実施に際して,連合および加盟国は,動物は感受性のある生命存在であるから,動物の福祉上の要件に十分配慮する。その際,とりわけ宗教儀式,文化的伝統および地域遺産にかかわる,加盟国の法的または行政上の措置と慣例を尊重する。EU機能条約13条参照:THE TREATY ON THE FUNCTIONING OF THE EUROPEAN UNIONEU指令畜産動物の保護に関する理事会指令(concerning the protection of animals kept for farming purposes)本指令は子牛・鶏・豚以外の畜産動物(アヒル、毛皮用動物、魚など)も対象としており病気または怪我をしていると思われる動物は、遅滞なく適切に治療しなければならない動物が継続的に閉じ込められている場合は、科学的知識に従って、生態学的必要性に適した空間を与えなければならないなどの基本的な要件が定められています。輸送時の動物保護指令(on the protection of animals during transport and related operations and amending Directives)魚も対象になっていますが、魚に関する特別な規定はありません。殺害時の動物保護指令(on the protection of animals at the time of killing)3条の1のみが魚に適用されます。3条1動物は、殺害時とそれにかかわる作業の間、回避可能な痛みやストレス、ケガからのがれられるべきである。EUでの議論上述したように、包括的な動物福祉の対象に魚も入っているとはいえ、他の畜産動物のような具体的な規定はありません。しかしEUでは魚の福祉についての本格的な議論が始まっています。2017年欧州委員会報告書「養殖魚の福祉」Welfare of farmed fish Common practices during transport and at slaughter : executive summary2017年11月17日に欧州委員会は主要な養殖魚5種の動物福祉についてヨーロッパ11か国で調査を行った報告書を発表。同報告書にはOIEの基準の遵守状況について報告されています。この中で次のような報告がされています。輸送の基準については、大西洋サケ、ニジマス、ヨーロピアンシーバス、ヨーロッパヘダイについてはかなり達成されているが、コイについてはいくつかの問題がある。屠殺の基準については、大西洋サケの場合はいくつかの例外を除いて基準が達成されているがコイとニジマスについては使用方法によって達成度が異なる。ヨーロピアンシーバスとヨーロッパヘダイについては氷の上で窒息死させるという方法が一般的に行われており、屠殺基準は達成されていない2019年3月欧州議会で魚の福祉について初の議論Debates Thursday, 14 March 2019 – Strasbourg 16. Animal welfare rules in aquaculture (debate)さまざまな政党の39の欧州議会議員が、多くのことを求められているにもかかわらず、委員会が魚の福祉を改善するための行動を起こしていない理由を尋ねました。 彼らは、EUの養殖魚の基準の立法案を求め、養殖プロセスのさまざまな段階での魚のニーズに関する研究への支援を求めました。ニュージーランド動物福祉法(Animal Welfare Act 1999 Public Act 1999 No 142)の対象動物に、魚(硬骨または軟骨)、タコ、イカ、カニ、ロブスター、またはザリガニ(淡水ザリガニを含む)が含まれており(対象は養殖、レストランの生け簀など。漁(野生で捕獲)は除く)、最低限の基準と推奨事項が規定されている(具体的なものではない)。全国動物福祉諮問委員会も養殖魚の福祉規定を策定する予定であるが、その時期はまだ決まっていない(2020年10月時点)。Fish: the forgotten animal welfare disaster?Esther Taunton, Oct 04 2020ノルウェー動物福祉法(Norwegian Animal Welfare Act)の対象動物に、魚や甲殻類、イカ、タコが含まれています。漁業については「適切な動物福祉基準を満たすような方法で実施されなければならない」とされています。大規模な養殖業のあるノルウェーでは、動物福祉法以外で、養殖魚について動物福祉を含むつぎのような規制がされています。養殖動物の輸送に関する規制 Forskrift om transport av akvakulturdyr養殖魚の食肉処理場および生産施設に関する規制 Forskrift om slakterier og tilvirkingsanlegg for akvakulturdyrこの規制には次のようなものが含まれます。食肉処理場の責任者は、魚の福祉について必要な知識を持っている必要があり、常に魚の福祉を管理するために必要な能力を備えた十分な人員がいることを確認する必要があります。魚は食肉処理場に到着した後、できるだけ早く殺さなければなりません。殺す前に気絶処理をして、殺すまで気絶したままでなければならない。養殖運営規則 Forskrift om drift av akvakulturanlegg (akvakulturdriftsforskriften)この規制には次のようなものが含まれます。魚は不必要に扱われるべきではありません。ワクチン接種、浸透、運搬、揚水などの取り扱いは、魚に危害を加えたり、不必要にストレスを与えたりしないように、穏やかな方法で適切なペースで行う必要があります。魚はできるだけ水から取り出さないでください魚が生きるために不必要または重大なストレスにつながる可能性がある場合は、できるだけ早く生産ユニットから取り外し、麻酔をかけ、責任を持って殺す必要がありますノルウェーでは、殺す前に気絶処理しなければなりません。以前は、CO 2が気絶のために使用されていましたが、この方法は魚に窒息感を与えるとして、2012年に禁止されました。今日では、電気的、打撃式の気絶処理が、使用されています。Fish farming in Norway Publisert 25.05.2016オーストラリアニューサウスウェールズ州は、動物虐待防止法の中の対象動物に魚、甲殻類(甲殻類についてはレストラン等小売店が対象)を含めています。Prevention of Cruelty to Animals Act 1979 No 200同州では、2017年2月 Nicholas Seafoodsが、ロブスターの下半身を生きたまま切断し、その後同じく生きたままバンドソーで解体していたことが明らかになりました。そしてこの殺し方が動物残虐にあたるとして有罪判決を受けています。ビクトリア州もまた、1996年以降、動物虐待法に魚類と甲殻類を含んでいます。同様の法律がノーザン・テリトリー準州、オーストラリア首都特別地域にも適用されています。Sydney fishmonger convicted of animal cruelty over lobster treatmentイタリア2017年、イタリアの最高裁判所は、ロブスターは殺される前に、レストランの厨房で氷で保管してはならないと裁定しました。裁判官は、生きている甲殻類を氷上に置いていたフィレンツェ近郊のレストランの所有者に、2,000ユーロの罰金(5,593ドル)とさらに3,000ユーロの法定費用を支払うよう命じました。Italian court says lobsters must not catch cold before cookingローマ(イタリアの首都)球状の金魚鉢の使用を禁止する条例がイタリアの首都ローマで可決。ローマの日刊紙Il Messaggeroは丸いボウルの中では魚が失明してしまうと報じ、魚の専門家は、ボウルでは十分な酸素を供給できないと言います。細則では、金魚やその他の動物を賞品として贈ることも禁止されています。Rome bans ‘cruel’ goldfish bowls CBC News · October 27, 2005レッジョ・エミリア(イタリアの都市)2004年 不必要な苦しみを引き起こしているとの理由で、ロブスターを生きたまま煮沸した場合495ユーロの罰金が科せられる条例が採択されました。Italian animal rights law puts lobster off the menuスイスキャッチ&リリース(釣った魚を川などに戻す)を基本的に禁止 これはスイスの動物福祉法が、正当な理由がない限り動物を傷つけることを禁止しているからです(Art. 4 Abs. 2 TSchG)。(食べるための釣りは禁止されていません)しかし一定の条件を満たすことができればキャッチ&リリースはできるとしています。たとえば、リリースする魚が生き残ることができる状況であることや、外来種ではないことなどです。出血などしてリリースしても生き残ることが困難だと考えられるときはリリースすることはできません。Vollzugshilfe Angelfischerei(Bundesamt für Umwelt BAFU)ロブスターを生きたまま煮沸することを禁止2017年1月 スイス政府は、ロブスターがまだ生きている場合、調理のために熱湯に入れることを禁じる新たな法律を成立させた。2017年3月から発効する。 新法は、ロブスターは痛みを感じる可能性がある高度な神経系を保持しているとする研究結果を踏まえたものとなっている。生きたロブスターの煮沸を禁止、「痛み対策」 スイス新法(CNN)2018.01.13 Sat posted at 17:25 JSTカナダ養殖サケ・マス・イワナに関するカナダ初の動物福祉規範が策定中(2021年秋に完成予定)Farmed Salmonids CODE UNDER DEVELOPMENTオランダ動物福祉の基準を策定中(2019月12日時点)RDA.2018.038 RDA Advisory Report: Fish Welfareイギリス18,000人以上の獣医を代表する英国獣医師会は、甲殻類が知覚力があることを示す最新の科学的証拠を踏まえ、殺して調理する前に気絶させることを義務付けるよう要求*7企業の取り組みテスコ甲殻類を屠殺する前にスタニング(気絶処理)をおこなうことを約束*4、養殖魚の動物福祉基準も作成*1しています。この基準には魚種ごとの福祉基準を設けることや、輸送時のウェルフェアを監視することや、過密の防止などが約束されてます。ウェイトローズ甲殻類を屠殺する前にスタニング(気絶処理)をおこなうといっています*4。同社ががかかげる動物福祉基準には養殖魚も含まれ、その中で、識別のためのヒレの切除の禁止や、魚種ごとのスタニング方法などについて記しています*2。セインズベリー動物福祉基準に、魚の項目があり、飼育密度の規定、体の切除の禁止、屠殺前のスタニングなどを約束しています*6。その他イギリスでは多くのメジャーなレストランで、電気式の気絶処理Crustastun*を使用しています*5*7。*Crustastunとは、カニやロブスター、ザリガニなどを感電致死させる器具。日本動物愛護管理法の基本原則の部分のみ、人の管理下にある魚にも適用されます。(基本原則)第二条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。2 何人も、動物を取り扱う場合には、その飼養又は保管の目的の達成に支障を及ぼさない範囲で、適切な給餌及び給水、必要な健康の管理並びにその動物の種類、習性等を考慮した飼養又は保管を行うための環境の確保を行わなければならない。しかしあくまで基本原則の部分だけであって、実際には魚や甲殻類は動物取扱業の対象からも、罰則対象からも外されています。また具体的なガイドラインも存在しないため、国内では実質魚や甲殻類の福祉を担保できる法令はない状況です。そのため、意識のある状態の伊勢海老を真っ二つにしたり蒸したり焼いたり、魚の活〆(気絶処理)もせずに解体するということもいまだ行われています。上述したOIE(世界動物保健機関)の基準も、国内では周知どころか翻訳さえ公開されていない状況です。*1 More information on our UK animal welfare UK Specific Information – Tesco Retail Store and One Stop Last updated: 1/8/2019*2 Animal welfare at Waitrosehttp://www.waitrose.com/home/inspiration/about_waitrose/the_waitrose_way/waitrose_animal_welfarecommitments.html*3 Fish: The Forgotten Farm Animal by LEWIS BOLLARD January 18, 2018https://www.openphilanthropy.org/blog/fish-forgotten-farm-animal*4 HUMANE TREATMENT AND SLAUGHTER OF DECAPODSCampaigning for the humane treatment of crabs, lobsters and other decapod crustaceans in the UK *5 Campaigning for the humane treatment of crabs, lobsters and other decapod crustaceans in the UK CRABS, LOBSTERS AND UK ANIMAL WELFARE LAW*6 Animal Health & Welfare Report 2017 sainsburys*7 British vets launch battle to stop lobsters being boiled alive after scientific evidence finds the creatures DO feel pain and chefs are urged to stun them before they are killedクリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article東京五輪 アニマルウェルフェアに関する報道まとめ Next Article妊娠ストール廃止を求める署名 2018/01/20