精進もせず中身も精進でない精進料理

アニマルライツセンター・アドバイザー 細川幸一

ヴィーガン食は、日本では伝統的な料理として精進料理が知られています。仏教の戒に基づき殺生や煩悩への刺激を避けることを主眼として調理された料理です。台湾では日本より一般的で「素食」(スーシー)と言われ、レストランや屋台でもこの文字をよく見かけます。

使用が禁止されている食材が大きく分けて2つあり、1つは肉・魚・卵等の動物性の食材で、もう1つはあまり知られてはいませんが、煩悩を刺激するとされる「五葷」(ごくん)と呼ばれるニラ・ニンニク・ネギ等のネギ属などに分類される野菜です。

精進料理は、僧侶には必須の食事であり、食事もまた修行のひとつとして作法とともに重要視されています。一般人の間でも、冠婚葬祭やお盆等において、一般家庭や料理屋でも作られるようになったとされますが、料理屋の精進料理は、仏教の食事に関する概念とは対照的にもてなしを目的として調製された美食として動物性の食材が使われているものも多くあるようです。

私自身の経験ですが、数年前に母が亡くなったときに葬儀社と告別式の後の食事内容を検討した際に、魚や肉を使う料理のメニューばかりが提示されたので、精進料理はないのですかと聞いたら、これが精進料理ですと言われたことがあります。精進料理の本当の意味を葬儀社は理解していないのです。

「精進落とし」という言葉もあります。葬儀や火葬の後におこなわれる会食のことをこのように言う場合があります。しかし、かつては仏教の考えに基づき、故人が亡くなってから四十九日法要を迎えるまでは、肉や魚などを使用しない精進料理を食べていました。その後、忌明けを迎えた際に普通の食事へ戻すことを「精進落とし」と呼んでいたのです。

本来の精進料理を食する慣習がある地域などもあると思いますが、私の経験では精進する期間もなく、食材も精進でない「精進料理」を食べていることになります。

この写真は、島根県安来の清水寺境内にある旅館松琴館の本物の精進料理。右上の料理は鰻もどき。夕食時に筆者撮影。

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