FARMWISE Impact 2026を分析 「アニマルウェルフェアと企業価値には相関があった!」

★この記事は「概要編」と「解説編」の二部構成です。概要編だけでも、今回の分析結果が簡単にわかります。分析がどのように行われたのかに興味のある方、さらに詳しく知りたい方は、続く解説編をご覧ください。

【概要編】

アニマルウェルフェアへの取組・情報開示が進んでいる企業ほど、企業価値も高い傾向にあることが、今回の分析で明らかになりました。

FARMWISE Impact 2026の評価対象となった上場企業81社を分析したところ、アニマルウェルフェア(AW)評価とPBRには、統計的に有意な正の順位相関が確認されました。

FARMWISE Impactは、企業が公表しているAWへの取組を評価するものです。つまり今回見えてきたのは、AWの「開示性」と企業価値との関連です。

今回使ったPBR(株価純資産倍率)は、その企業に対する投資家の評価がどれだけ高かったかを見る指標の一つです。いわゆる「企業価値」と言い換えることもできます。

しかし、FARMWISE Impactの評価を4領域に分けると、「全体方針」だけはPBRとの有意な相関が確認されませんでした。

相関が出たのは、「調達方針・実践」「動物性素材からの転換」「対話」でした。

なかでも最も強かったのは「対話」だったのです。

実際、対話を行っている企業のほうが、投資家から高く評価される傾向がはっきりと現れました。PBRで比べると、対話のある企業は1.46倍、ない企業は0.88倍(いずれも中央値)です。方針を掲げることより、取組が外から見えることのほうに、企業価値との関連が強く現れたのです。

「アニマルウェルフェアに配慮する」という方針を掲げる企業は、日本でも少しずつ増えてきました。しかし、どの畜種について、どのような基準を設けているのか。調達はどこまで変わったのか。目標に対して、現在どこまで進んでいるのか。外から見えなければ、その企業の取組を評価することはできません。だからこそ公表、公開が大事だということは、アニマルライツセンターがもともと企業訴えていることで、それが証明されたことになります。

これは消費者だけの話ではありません。企業が公表する情報は、投資家がその企業を評価するときの材料にもなります。気候変動、人権、生物多様性について企業が情報を開示するようになったように、動物への影響についても、企業が把握し、改善し、その進捗を外部に示すことが求められているのです。

今回の81社では、そうした「外から見えるAW」と、投資家からの評価との間に、実際に相関が現れました。

しかも、その相関は単に方針を掲げるところではなく、調達や実践、動物性素材からの転換、そして対話という、企業の行動が見えるところに現れています。

では、この相関は何を意味するのでしょうか。

AWへの取組や情報開示に積極的な企業は、もともと収益性が高い、規模が大きい、成長性が高いなど、別の特徴を持っている可能性があります。そうした企業は、AWとは関係なくPBRが高いかもしれません。つまり、現段階では、相関があることと、AWへの取組が企業価値を高めていることはまったくイコールではありません。

今回確認できたのは、AWの開示性とPBRとの間に統計的な関連があるというところまでです。でもこれって、めちゃくちゃ画期的なことなんです。簡単にいうと、市場においては、公表するだけで企業価値に良いインパクトがある、その片鱗が見えたわけですから。世界にもあまり例がない現象でもあります。ただしこの関連がAWだけによるものなのか。それとも収益性や企業規模、成長性、財務状況、業種などによって説明されるのか。そこを切り分けるため、今後はこうしたAW以外の要因を統制した分析へ進みます。結果がでたら、公式サイト上で報告します。


【解説編】

ここからの解説編では、81社のデータを使った統計分析を掲載します。専門用語をつかっています。あわせて、今後の分析方法を検討するうえで参考となる先行研究を紹介します。

FARMWISE Impact 2026とPBRの統計分析

分析対象

FARMWISE Impact 2026の評価対象企業のうち、上場法人との対応を確認でき、PBRを取得できた81社を分析対象としました。

FARMWISE Impactは原則として企業の公表情報を根拠に評価しています。本分析ではFARMWISE得点を、企業内部におけるAW実施度そのものではなく、外部から観察可能なAWへの取組・情報開示を示す指標として扱いました。

評価対象企業および各社の評価結果については、FARMWISE Impact 2026の公開ページをご参照ください。

FARMWISE総合得点とPBR

FARMWISE総合得点とPBRについて、Pearson相関、OLS単回帰、Spearman順位相関、Kendall順位相関を確認しました。

分析方法統計量p値
Pearson相関r=0.1390.215
OLS単回帰β=+0.03340.215
Spearman順位相関ρ=+0.3070.0053
Kendall順位相関τ=+0.2200.0053

Pearson相関とOLS単回帰では、5%水準で統計的に有意な関係は確認されませんでした。Spearman順位相関とKendall順位相関では、ともに1%水準で有意な正の相関が確認されました。

12社による予備分析

当初、データを取得できていた12社について、FARMWISE総合得点とPBRの単回帰分析を行いました。

分析対象OLS係数p値
12社−0.04690.617

12社では統計的に有意な関係は確認されませんでした。

その後、分析対象を81社まで拡大した結果、Spearman順位相関とKendall順位相関で有意な正の相関が確認されました。

感度分析

一部の高PBR企業やAW高評価企業によって結果が生じていないかを確認するため、主要企業を除外する感度分析を行いました。

日本ハム、イオン、セブン&アイ・ホールディングス、明治ホールディングス、トリドールホールディングス、スターゼン、丸大食品などを個別に除外しても、正の順位相関は概ね維持されました。さらに、日本ハム、明治ホールディングス、イオン、セブン&アイ・ホールディングス、トリドールホールディングスの5社を同時に除外しました。

分析Spearman ρp値
主要5社除外0.2820.0135

5社を同時に除外した場合も、5%水準で有意な正の順位相関が維持されました。

FARMWISE評価領域別の分析

FARMWISEの公式評価構造に沿って4領域に分け、それぞれPBRとのSpearman順位相関を確認しました。

FARMWISE評価領域Spearman ρp値
全体方針(Q1~Q5)0.1970.0776
調達方針・実践(Q6~Q13)0.2380.0325
動物性素材からの転換(Q14~Q15)0.2250.0437
対話(Q16)0.2900.0086

「調達方針・実践」「動物性素材からの転換」「対話」では、5%水準で有意な正の順位相関が確認されました。

「全体方針」は5%水準では有意ではありませんでした。

「対話」は4領域の中で最も強い相関を示し、1%水準でも有意でした。

対話の有無による比較

「対話あり」と「対話なし」の2群に分け、PBRを比較しました。

企業数PBR中央値
対話あり47社1.46倍
対話なし34社0.88倍

Mann–Whitney U検定では、p=0.0096となり、両群に統計的に有意な差が確認されました。

AW以外の要因を考慮した分析

今回確認したのは、FARMWISE Impactの評価とPBRとの単変量での関連です。PBRには、収益性、企業規模、財務構造、成長性、業種など、AW以外の要因も影響します。そのため、次の段階ではこれらを統制変数とした多変量分析を行います。

想定する基本モデルは以下のとおりです。

PBR = FARMWISE + ROA + ln(総資産)+ 負債比率 + 売上高成長率 + 業種ダミー + ε

変数内容
PBR被説明変数
FARMWISEAWの取組・情報開示
ROA収益性
ln(総資産)企業規模
負債比率財務構造
売上高成長率成長性
業種ダミー業種差

この分析によって、AW以外の企業特性を統制した後も、FARMWISEとPBRとの関連が維持されるかを検証します。

分析方法の参考とした先行研究

企業のAW情報開示については、Sullivan, Amos & van de Weerd(2017)が、Business Benchmark on Farm Animal Welfare(BBFAW)のデータを用いて、世界の主要食品企業のAWに関する方針、管理、目標、実績等の開示を分析しています。

McLaren & Appleyard(2020)は、BBFAWの報告書と企業へのケーススタディ・インタビューを用いて、AWベンチマークと企業のアカウンタビリティについて分析しています。

また、今後の多変量分析では、AWに限定せず、ESG情報開示と企業価値との関係を検証した先行研究についても、統制変数やモデル設定の参考とします。

今回の分析で確認されたこと

FARMWISE Impact 2026の上場企業81社では、総合得点とPBR(企業価値)との間に有意な正の順位相関が確認されました。

・主要企業を除外した感度分析でも、正の順位相関は維持されました。

・評価を4領域に分けると、「全体方針」では有意な相関が確認されなかった一方、「調達方針・実践」「動物性素材からの転換」「対話」では有意な正の順位相関が確認されました。

・「対話」は4領域の中で最も強い相関を示しました。また、対話あり企業と対話なし企業のPBRの差は、Mann–Whitney U検定でも統計的に有意でした。

今回確認されたのは、AWの取組・情報開示とPBRとの相関です。因果関係については示していません。今後、AW以外の企業特性を統制した多変量分析を行い、この関連をさらに検証します。


参考文献

Sullivan, R., Amos, N., & van de Weerd, H. A. (2017). Corporate reporting on farm animal welfare: An evaluation of global food companies’ discourse and disclosures on farm animal welfare. Animals, 7(3), 17

McLaren, S., & Appleyard, T. (2020). Improving accountability for farm animal welfare: The performative role of a benchmark. Accounting, Auditing & Accountability Journal, 33(1), 32–56