アニマルウェルフェアは、科学の進歩とともに発展し続けています。
かつては「より良い方法」と考えられていた技術が、新たな研究によって動物に強い苦痛を与えることが明らかになることがあります。反対に、より苦痛の少ない新しい技術や管理方法が開発されることもあります。
そのため、情報を発信する専門家や団体だけでなく、実際に動物を飼養・利用する生産者や企業も、常に最新の科学的知見を取り入れ、より高いアニマルウェルフェアを目指し続ける姿勢が求められます。
今回、私たちは公益社団法人畜産技術協会が公開したアニマルウェルフェアに関する冊子について、最新の科学的知見との整合性という観点から3点の改善を要望しました。
要望した内容
1. ブロイラーの頸椎脱臼器具
『快適性に配慮したブロイラーの飼養管理』では、頸椎脱臼に使用する器具としてペンチ型器具が海外事例として紹介されていました。
しかし、その後の研究では、このような器具は成功率が低く、動物を押し潰してしまう可能性や、意識喪失までの時間が長くなることなどが報告されています。一方で、より改善された器具や補助器具についても研究が進められています。
私たちは、この記載を削除し、より科学的根拠のある方法へ差し替えることを要望しました。
2. 豚の歯切り
『豚の飼養管理におけるアニマルウェルフェア』では、歯切りの方法が改善事例として紹介されていました。
しかし、WOAH(世界動物保健機関)が示す考え方では、まず「必要な処置そのものを減らす(Reduction)」ことが重要です。
私たちは、「歯切りを前提とする」のではなく、「まず歯切りを減らし、本当に必要な場合のみ実施する」という考え方がより明確に伝わるよう修正を求めました。
3. 牛の除角
『肉用牛の飼養管理におけるアニマルウェルフェア』では、除角を実施する際の方法が中心に記載されていました。
一方、WOAHコードでは、除角そのものを不要にする管理方法や、無角牛の育種なども重要な選択肢として示されています。
私たちは、除角を前提とするだけではなく、「除角を行わない方法」も最初に検討するという考え方が伝わるよう要望しました。
畜産技術協会の回答
畜産技術協会からは、要望1について、
海外事例として掲載していた頸椎脱臼用ペンチの紹介はホームページから削除する。
との回答がありました。2026年4月の段階で過去のものを含め削除されていることを確認しました。
さらに、代替となる器具やトレーニング方法についても、
情報を収集した上で検討する。
との回答が示されました。
また、牛の除角についても、
処置を中止する選択肢や、管理方法・育種による代替について、さらに情報を収集し、記載方法を検討する。
と回答しています。
一方、豚の歯切りについては、「必要な場合のみ行う」と既に記載していることから、現時点では修正を行わないとの見解が示されました。
専門機関でも情報は更新される
畜産技術協会は、日本の畜産技術に関する知見を集約・発信している専門機関です。そのような専門機関であっても、新しい研究成果によって従来の内容を見直す必要が生じます。
これは誰かの誤りを責める話ではありません。
アニマルウェルフェアは、科学に基づいて絶えず更新される分野だからです。
例えば、今回の頸椎脱臼器具のように、「以前は有効と考えられていた方法」が、後の研究によって動物への苦痛が大きいことが判明することがあります。今回の事例は、
「【海外の事例紹介】
ドイツのブロイラー農場を見学した際に、鶏の安楽死に関する質問をしたところ、やむを得ず安楽死させる際には頸椎脱臼させるための専用の道具を使用していると説明があった。また安楽死させた鶏の和数や原因を毎日記帳する必要があるとのことであった。」と書かれており、その隣に動物に苦痛を与える器具の写真が掲載されていました。
つまり、「ドイツの農場は当然先進的であろう」という先入観により、アニマルウェルフェアを下げる結果となったのです。生産者はあくまでも生産者です。アニマルウェルフェアの専門家ではなく、実践者であり、その事業の主たる目的は畜産物の生産販売=利益です。時間をかけて隅々まで点検し完璧になることは目的とされておらず、また多くの場合自分たちの方法を継続したがる傾向を持ち、また慣習を疑ってかかることは人の心理的にも困難です。畜産技術協会は、紹介されたものをそのまま受け取るのではなく、ファクトチェックをする責任があったはずなのです。
同じことは豚の屠殺時のCO₂ガススタニングでも起きています。豚の屠殺時のCO₂は長年欧州で広く使用されてきましたが、現在では高濃度CO₂が強い苦痛や呼吸困難を引き起こすことが数多くの研究で示され、代替技術の開発が世界各国で進められています。
アニマルウェルフェアに「完成」はありません。
だからこそ、専門家、行政、業界、生産者、そして私たち市民も、常に最新の科学的知見に耳を傾け、なによりも動物の状態や声を必死で拾い集め、「今よりも苦痛の少ない方法はないか」を問い続けることが、アニマルウェルフェアの向上につながります。
私たちアニマルライツセンターも、今後も現場から伝えられる動物たちの声と、最新の科学的知見をもとに建設的な提案を行い、動物たちの苦痛を少しでも減らすための活動を続けていきます。













