エッセイ:台湾におけるヴィーガン・アクティビズムの広がり

武蔵大学 国際教養学部 国際教養学科 教授 古瀬公博

台湾は歴史的に菜食[1]の習慣が根付いており,世界で最もヴィーガンおよびベジタリアンに優しい国のひとつであると言われている[2].台湾において,菜食は伝統的で宗教的な習慣であるという印象が強かったが,2000年代後半から持続可能性の観点から菜食のメリットが注目されるようになり,若者の間でも広く注目を集めることになった[3]

菜食への関心の強さを示す象徴的な事例を紹介しよう.第1に,2008年に菜食を通じて地球温暖化を防ぐくことを目的とした「蔬食抗暖化聯盟」が設立され,その署名活動に119万人が参加したということである[4].この連盟は,台湾緑党の潘翰聲(Pan Han-sheng;現在は樹党(樹黨)に所属)らによって組織され,動物保護団体や環境保護団体のほか,宗教団体や学生団体など50の団体が参加した[5]

第2に,2023年4月22日のEarth Dayにおいて台湾のMeat-Free Monday Network(週一無肉日平台)が呼び掛けたパレードである[6].このパレードには,160のグループからなる2,000人以上が参加した.蔬食抗暖化聯盟の例と同じように,動物保護・環境保護団体以外にも宗教団体や企業なども参加し,また,40人以上の政治家も参加した.

このように多くの人々が持続可能な食品としての菜食に支持を示したのはなぜだろうか.歴史的に菜食が根付いていたのはもちろんであるが,それ以外の要因とのひとつとして,宗教団体が積極的に持続可能性の観点から菜食の重要性を主張してきたことは無視できない.台湾の仏教系団体である「慈済基金会(Tzu Chi)」や「仏光山(Foguangshan)」などは,”socially engaged Buddhism” と表現されるように,社会問題に積極的に関わることで信者を獲得してきた[7].宗教的な教義から敢行されてきた菜食を,新たに社会的課題の解決策として位置付けることで,これらの宗教団体は特に若年層からの支持を獲得しようとしているのである[8]

また,2014年にひまわり学生運動を機に,若者が政治運動に積極的になったことも指摘されている[9].この学生運動自体は,台湾の主権維持を主張するものであったが,広く社会問題への関心を高めることになった.2013年には動物保護施設における犬の殺処分を扱ったドキュメンタリー映画「十二夜」が公開されたが,これを契機に起こった殺処分に反対する運動にも,ひまわり学生運動に参加した者が加わっていた.デモには約2,000人が参加し,それを受けて,2015年に「動物保護法」が改正され,公立の動物収容施設における犬猫の収容期限後の殺処分が原則禁止されることになった(2017年2月に施行).

 ヴィーガンやアニマルライツは欧米で成立した概念であるが,それが台湾に受け入れられる過程で,古くから存在していた文化と融合することで,多くの人々から支持されるようになったことは興味深い.人権など普遍的な概念が現地の言語や文化の枠組みで翻訳され受容される過程は「ヴァナキュラライゼーション(vernacularization)」と呼ばれるが[10],その一つの成功例として理解することができる[11].台湾においては,多様な人々が,多様なアジェンダに基づいて,菜食やアニマルライツを推進するアクティビズムに参加し,政策に対する影響力を強めていったのである.


[1] 台湾における伝統的な精進料理は「素食」(sùshí)と表記され,五葷も含まれる一般的な菜食は「蔬食」(shūshí)と表記される.

[2] たとえば,PETA ASIAによる紹介記事がある.”Taipei Named Most Vegan-Friendly City in Asia”(2016年12月27日) (https://www.petaasia.com/media/taipei-named-vegan-friendly-city-asia/) (最終アクセス:2026年7月8日)

[3] 台湾におけるヴィーガン・アクティビズムの詳細はLopez(2025)を参照されたい.Lopez, G. S. (2025). Going weigen: Animal advocacy and sustainability intersections under Taiwan’s New Vegan Movement. International Journal of Taiwan Studies, 1, 1-34.

[4] 關懷生命協會「世界環境日蔬食抗暖化 119連署的真相」(2008年6月16日)(https://www.lca.org.tw/article/184)(最終アクセス:2026年7月8日)

[5] 蔬食抗暖化聯盟のプレスリリース.(https://www.coolloud.org.tw/node/19530)(最終アクセス:2026年7月8日)

[6] Vegconomist ”Taiwan’s Meat-Free Monday Reports Astonishing Progress, Generates Commitments From Government Sectors”(2023年6月2日) (最終アクセス:2026年7月8日)

(https://vegconomist.com/politics-law/taiwan-meat-free-monday-astonishing-progress/)

[7] Schak, D. (2009). Community and the new Buddhism in Taiwan. Journal of Chinese Ritual, Theatre and Folklore.

[8] 黒羽 夏彦(2022)「多様化する台湾の素食文化」『交流 : 台湾情報誌』 (980), 15-20.

[9] Lopez(2025)

[10] Levitt, P., & Merry, S. (2009). Vernacularization on the ground: local uses of global women’s rights in Peru, China, India and the United States. Global Networks, 9(4), 441-461.

[11] Lopez(2025)