論文概要
中国で行われた畜産動物の福祉に関する研究は、中国国外ではアクセスされることは少なく、知られていない。このため、中国においては畜産動物の福祉はあまり注目されていないと推定される可能性がある。本研究では、このような見方に対して頑健な反証データを提供することを目的として、中国における畜産動物のアニマルウェルフェアに関する既存の文献についてビブリオメトリクス(計量書誌学)分析を行った。
1992年3月から2023年6月までの期間に、畜産動物のアニマルウェルフェアに関して中国から発表された査読付き論文1312件を、Web of Science および China National Knowledge Infrastructureの2つのデータベースから抽出した。これらの論文にCiteSpaceソフトウェアを使って、その件数・動物種・著者・研究機関・ジャーナル・キーワードを分析・可視化した。中国における畜産動物のアニマルウェルフェア研究は、初期段階(1992~2001年)、高度成長段階(2002~2007年)、成熟段階(2008年~現在)を経て進展しており、研究規模は拡大し続けている。特に、豚と鶏に関しては、この研究分野において優先的に取り上げられてきた。著者と研究機関についてはマタイ効果*が認められ、複数の著者と研究機関の間における共同研究は比較的少ない。ほとんどの論文が掲載されるのは少数のジャーナルであるため、研究発表の媒体には集中する傾向が見られる。
研究におけるホットスポットは、次のように要約される―「飼料と食餌」・「環境への影響と制御」・「統合的な飼育管理」・「傷害と疾病」・「行動および行動モニタリングの技術」・「遺伝子解析」・「輸送と屠殺における福祉」・「福祉に配慮した畜産物の消費」・「アニマルウェルフェアに対する考え方」・「健全な繁殖」。一方、キーワードとしての「コンピュータビジョン」・「認識」・「温度」・「精密畜産」・「採卵鶏」・「行動」は、この分野における主要な研究フロンティアであり、今後の研究において重要な領域となる可能性を示している。
今回のビブリオメトリクス分析の結果は、中国において畜産動物のアニマルウェルフェアは注目されている研究分野であることを裏付けている。中国のアニマルウェルフェア研究には実用性を重視する傾向があり、アニマルウェルフェアの向上のみに集中するのではなく、成長や生産能力、製品の品質を向上させることに重点を置くことが多いようである。本稿は、中国における畜産動物のアニマルウェルフェアの現状や将来の方向性を把握・理解するうえで極めて有用性の高い資料を提供するものである。
*条件に恵まれた研究者は優れた業績を挙げることでさらに条件に恵まれるという現象(Wikipedia より抜粋)
Lihang Cui, Wenjie Tang, Xiaoshang Deng, Bing Jiang
2023/10/08
Farm animal welfare is a field of interest in China: A bibliometric analysis based on CiteSpace