論文概要
現代の西洋社会では、消費者は食肉の元になる動物から切り離されていることが多く、これは動物に対する共感を妨げると同時に、嫌悪感や罪悪感を軽減させることで食肉の消費を促進している。逆に、動物の保護を唱える人々は、食肉の元になった動物の存在を訴えることで、道徳的感情を喚起し、食肉消費を抑制しようとすることがある。
このような食肉と動物を結びつけるリマインダーの有効性を調査するため、英事前登録された本研究では、Prolificを通じて肉を食べる英国の参加者421人を募集した。各参加者には、以下の3種類の画像のうち1つを無作為に提示した:動物を想起させるリマインダーを付けないポークチョップ(対照条件)、豚を撫でる人間を写した画像を付けたポークチョップ(動物愛護のアピール)、屠殺前の豚を気絶させる人間を写した画像を付けたポークチョップ(動物虐待のアピール)。
害悪に関する道徳的判断の理論に従って、被害者となる豚(共感・悲しみなど)、加害者の人間(怒り・嫌悪感など)、参加者自身(罪悪感・恥など)の3者に対して参加者が抱いた道徳的感情を測定し、こうした道徳的感情がポークチョップを食べるのを考え直す意思や、豚肉を食べることを正当化する傾向に対してどのような影響を及ぼすかを調べた。
分散分析の結果、動物を想起させる2種類のアピールによって(対照条件との比較で)道徳的感情が高まることがわかった。また、媒介分析からは、こうした道徳的感情によって豚肉を食べることを正当化する傾向は間接的に低下し、食生活の変化への意欲が高まることが明らかになった。動物虐待のアピールは、加害者に対する感情、および被害者に対する感情を惹起するため、特に有効であると考えられる。
しかし、道徳的感情による影響を除外して検証した場合、豚肉を食べること正当化する傾向や、食生活を改める意欲に対して逆の効果があることも明らかとなり、道徳不活性化* moral disengagement が起こっていることが示唆された。肉を食べることを快楽とする動機はやはり大きな障壁であり、今後の研究では、消費者の道徳的懸念を食習慣の持続的な変化につなげられるような介入策を探る必要がある。
Rui Pedro Fonseca, Ben De Groeve
2025/04/20
‘Meating’ the animal and moral emotions: Exploring animal caring and cruelty appeals for dietary change