論文概要
一般に漁業管理は短期的な視点で計画されているが、これは長期的な持続可能性や生物多様性の目標、とりわけ生物の進化のタイムスケールと比べると、非常に短い期間に関するものとなっている。多くの魚類資源が持続可能なレベルを超えて世界中で搾取されており、漁業が引き起こす魚体サイズの縮小、成長率の低下、個体レベルでの魚類の経済的価値の低下などの原因となっている。
ここでは、経済における意思決定と魚類個体群における生態進化の動態を組み合わせ、漁業管理を従来とは異なる期間で計画して収益を最大化した場合に(魚類の)退化に及ぼす影響、魚類資源の保全のために設定される目標と得られる収益の間に生じるトレードオフ、の2点に関して検証した。
その結果、魚類の退化を逆転させることができるのは100年に及ぶ長期的な計画のみであることがわかった。通常の短期的な計画では、生物資源としての総量は回復可能となるが、魚類の退化はかなり弱い程度ではあるが、そのまま続くことになる。遺伝的形質を保全するための目標を設定する場合、収益はわずかに減少する。また、退化に抗うために漁業における対象種の遺伝子型を選択することができれば、トレードオフをさらに緩和することができる。
持続可能性と生物多様性の実現に向けては、魚類資源を回復するだけでなく、同時にその遺伝的多様性を回復することが求められており、これは漁業によって引き起こされる退化を覆すことを意味している。持続可能性に関するこうした目標を達成するためには、経済的インセンティブのみでは十分ではない可能性があることを明らかにする。
Hanna Schenk, Fabian Zimmermann & Martin Quaas
2023/03/16
The economics of reversing fisheries-induced evolution