論文概要
食肉のロスや廃棄を減らすことの重要性は、その環境への影響の大きさのために認識されているが、アニマルウェルフェアの側面について取り上げられることはほとんどない。食べられることのない食品を生産するために動物たちに加えられる苦痛と死は、人々の目には見えないままである。
本研究の目的は、食品のロス・廃棄を推計した研究とアニマルウェルフェアへの配慮のあいだにある隔たりを埋めることにある。そのため、主要な食肉生産に供される畜産動物6種について、食肉のサプライチェーンにおけるロス・廃棄に含まれる動物たちの命を推計し、これを削減できる可能性のある3つのシナリオをモデル化する。
それによると、2019年に世界の食肉の生産・消費で発生した食品ロス・廃棄物には、約180億の動物の命が含まれている。これに対し、世界の各地域で最適化されたサプライチェーンが主流になった場合、79億頭の動物の命を救うことができる。また、持続可能な開発目標12.3が実施された場合には、(1)サプライチェーンの下流における食品ロス・廃棄が50%削減され、42億頭の動物の命が救われる、または、(2)サプライチェーン全体の食品ロス・廃棄が50%削減され、88億頭の動物の命が救われる。
それぞれの動物種に固有の意識や感性、そして先行研究からの提言を併せて考慮すると、消費を変革するための効果的な介入ポイントは、高所得の先進諸国にある。失われる動物の命で比べた場合、アジアの先進地域はその絶対数で最も多く、北米とオセアニアでは一人当たりの数値として最も高い。他にも、食品ロス・廃棄の量と犠牲となる動物数において上位に位置する国々は有効な介入ポイントとなる。さらに、特に鶏肉と牛肉をはじめ、様々な種類の食肉のロス・廃棄を削減することと、(温室効果ガス)排出量と資源利用を抑制しつつ、食糧安全保障を損なわずに生産段階での食肉のロスを削減することは、トレードオフの関係にあり、アニマルウェルフェアのために同時には達成できないことも明らかとなった。
Juliane Klaura, Gerard Breeman, Laura Scherer
2023/11/18
Animal lives embodied in food loss and waste