論文概要
アイルランドにおける牛肉の貿易取引は欧州連合(EU)の中で最大規模であり、酪農製品の主要な輸出額も大きい。競馬は大きな文化的価値を保っており、グレイハウンド競馬は地域レベルの経済において重要である。畜産動物のアニマルウェルフェアに対する国民の関心は高まっており、生物多様性の喪失が深刻化している状況を踏まえ、本研究では、2011年・2016年・2020年の総選挙を通じ、アイルランドにおける動物保護の政治的重要性を検証する。政治的重要性とは、政治問題に対する国民の関心の度合いを測定するものであり、政党のマニフェストはその指標となる。
本研究では、アイルランドの主要5政党(フィアナフォイル共和党・統一アイルランド党・緑の党・労働党・シンフェイン党*)によるマニフェストに見られる動物保護に関する364件の声明について、量的および質的手法を用いて分析した。その結果、これらの選挙の期間を通じて、動物保護に関する声明の頻度と積極性は大幅に増加し、フィアナフォイル共和党と統一アイルランド党には態度の変化が見られた。緑の党は一貫して進歩的な動物保護政策を推進してきた。
畜産動物のアニマルウェルフェア、野生生物と生物多様性、競馬とグレイハウンドレースといった主要な問題は、経済的な影響があることも反映して、政党のマニフェストにおいて目立つようになった。このような注目の高まりにもかかわらず、子犬の売買や、畜産動物のアニマルウェルフェアに関するいくつかの側面など、重要な問題については、まだ十分に議論されていない。本研究は、アイルランドの政党マニフェストにおける動物保護政策に関して、包括的な学術的分析を始めて提供するものである。
* フィアナフォイル共和党は中道、統一アイルランド党は中道右派、緑の党・労働党・シンフェイン党は左派とされる。
Annick Hus, Steven P. McCulloch
2024/12/15
The Political Salience of Animal Protection in the Republic of Ireland (2011–2020): What Do Irish Political Parties Pledge on Animal Welfare and Wildlife Conservation?