論文概要
食料システムからの温室効果ガス排出は世界全体の約3分の1を占めるため、人類の活動の中でもこの領域において緩和を進めることは研究と政策にとって極めて重要な目標である。本研究では4,008人の参加者を対象として誘因両立性の制約を満たすオンライン無作為化対照試験を実施し、フードデリバリーアプリにおける食事選択について、そのカーボンフットプリント*1を削減するための3つの介入手段の有効性を検証する。
実験では、一般的なオンライン・フードデリバリーサービス(ウーバーイーツUber Eatsなど)を模倣したインタラクティブなWEBプラットフォームを利用し、その中で3つの処理条件(食肉への課税を明示する標識、カーボンフットプリントを表示するラベル、炭素負荷の低いレストランや料理が最初に表示されるように順序を並べ替えたメニューを使った選択アーキテクチャ*2による介入)を設定した。
その結果、選択アーキテクチャによるナッジにおいてのみ、食事の平均カーボンフットプリントが有意に減少した。その減少幅は1回の注文につき0.3 kg/CO2e(12%)であり、これは主にカーボンフットプリントの高い食事の選択が5.6%ポイント(13%)減少したことに起因していた。
さらに、健康や福祉の面においても大きなコベネフィット*3があることがわかった。メニューの並べ替えによって、注文された食事に含まれる平均的な栄養価はより高くなるとともにカロリーは低くなり、同時に食事の選択に関する自己申告の満足度は有意に上昇した。
単純な試算でも、メニューの並べ替えは、大規模に実施できればきわめて費用対効果の高い政策手段となり、実施に必要なコストにもよるが、CO2排出量の削減1トン当たりで1.28ポンドから3.85ポンドの投資収益率を期待できる。
*1 製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至る過程を通して排出される温室効果ガスの総量。カーボン(CO2 )の排出量に換算して表示される。*2 行動科学において、人々の行動を望ましい方向に導くための方法や選択肢を含む環境設計 *3 環境行動に伴って得られる副次的・間接的・相乗的な便益(共便益)
Paul M Lohmann, Elisabeth Gsottbauer, James Farrington, Steve Human, Lucia A Reisch
2024/09/19
Choice architecture promotes sustainable choices in online food-delivery apps