論文概要
概要
新しく売り出されたプラントベース・バーガーは、“肉食市場”へ売り込んだという点で、従来のビーガン・バーガーとは異なるが、その広告が、肉を食べる消費者の興味を引いたのか、もしそうであればどの程度の興味を引いたのか、については、まだ不明確である。本研究では、ニールセンが提供するアド・インテルから得られる最新のデジタル広告データセットを用いて、プラントベース・ミート市場の主力商品である「インポッシブル・バーガー」の市場への参入と宣伝の傾向を調査する。対象とする市場における週ごとの広告試聴数と、ニールセン・ホームスキャン・パネルのデータを結合することにより、我々は次のことを発見した。
- 数か月以内に肉のバーガーを購入した場合、インポッシブル・バーガーを購入する確率が低下する。
- 一方、過去にビーガン・バーガーを購入したことがあれば、インポッシブル・バーガーを購入する確率
が高くなる。
広告により、インポッシブル・バーガーの購入確率の平均値は確実に増加した一方で、肉を食べる消費者の同商品の購入確率の増加量は、ビーガン・バーガー消費者の購入可能性増加量の約5分の1程度であった。これらの発見は、新しいプラントベース・ミート商品を異なる対象グループの消費者へ効果的に売り込む際に、密接な関連がある参考事例となる。
[訳注: 用語の補足]
ニールセン: 消費者視聴行動分析・購買分析の会社
アド・インテル: ニールセンが提供する複数媒体(テレビ、オーディオ、デジタル(一部の市場では検索とソーシャルを含む)、印刷、アウトオブホーム、映画など)の広告活動分析サービス
ニールセン・ホームスキャン・パネル:ニールセンの調査に協力している世帯が、実店舗で購入した商品・価格・購入日時等を記録したデータ
参考:インポッシブル・バーガーのビデオ広告がどのようなものであったかの記述:
その広告は、鉄板のクローズアップから始まる。生のピンク色のバーガーのパテが油の中でジュージュー鳴っており、そのうちのいくかからは、とろりとした溶けかかったアメリカンチーズの層が垂れている。ヘラで一枚の新鮮なパテをひっくり返すと、油脂がパチパチとはぜる音の中で、そのやわらかい面が熱い鉄板を打つ(Fassler, 2021)。[ビデオは現在視聴できない]
1.序論(一部省略)
約5年ほど前、新世代のプラントベース・バーガー製品が、植物性原料から肉のようなバーガーを作ったこと、およびその“肉製品”的な広告のため、バーガー市場において注目された。これらの“肉製品”広告の目的は、フレキシタリアン(Derbyshire, 2017)と肉愛好家による消費の拡大を狙ったものであった。新世代の商品は、味と外見が肉バーガーと類似していることを宣伝することで、従来のビーガン・バーガーとの違いを際立たせた。”肉”という用語の利用について肉業界から強い批判とボイコットがあったにも関わらず、これらプラントベース・バーガーを“肉製品”的に広告するという戦略は、過去5年間で売り上げを3倍にしたという点できわめて効果的であった。
以前は「ビヨンド・ミート」の独占市場であったプラントベース・バーガーの市場は、2016年のインポッシブル・バーガーの発売以来、少しずつ変化し、2商品による複数占有状態となった(Humbert,2021)。発売から3年後の2019年9月、インポッシブル・バーガーはスーパーマーケットやバーガー・キングなどのチェーン・レストラン店で購入可能となり、この年以降、インポッシブル・バーガーの広告と売り上げは、大幅に増加し続けている(Brand Intelligence, 2019; Impossible Foods, 2019)。インポッシブル・バーガーの広告は、最も熱烈な肉愛好家をターゲットとするために、この商品は牛肉と同じくらいに病みつきになる肉っぽい体験を提供しますよ、という映像、音、宣伝文句を消費者に示している。インポッシブル・バーガーの販売元であるImpossible Foods社は、広告を利用して、従来の肉バーガー市場への進出を狙っているが、この販売促進活動が、本当にバーガー市場全体を拡大させているのか、それとも単に既存の肉バーガー市場内のシェアを獲得しているに過ぎないのか、は不明確である。本研究では、インポッシブル・バーガーの販売を起点として、広告がどれだけ広範囲に渡る多種多様な顧客層(白身肉、赤身肉、ビーガン・バーガーの消費者を含む)に効果をもたらすのか、について調査を行った。
本研究の特徴として、以下の3つが挙げられる。
- プラントベースの代用肉に関する研究を、バーガー市場というカテゴリーに特定し、従来のアンケート方式ではなく実店舗での購入データを利用し、詳細な消費者層分析を実施した。
- 本研究では、デジタル広告視聴率のデータと、実店舗の売上システムから得られるデータを結合する新手法を提案した。
- 本研究では、新商品のオンライン広告が、オフラインでの購入に与える影響について、また従来の対象顧客と新規顧客のそれぞれに与える影響について調査を行った。
2.関連文献の評価
訳注:少々統計学に関する専門的な内容となるため、本セクションは省略する。興味ある方は原文のセクション2を参考のこと。
3.データ(抜粋)
広告に関するデータはニールセンから得た。2017年~2020年の間、Impossible Foods社は単一の広告メディア、すなわちデジタル広告のみを通じて宣伝を行ってきた。ニールセンが提供するデータは以下の3種類のデジタル広告を含む。
- 文字/ロゴ/画像表示系広告
- ユーザーが選択した動画の前に表示される動画広告
- インバナー動画広告
地域に関しては、ニールセンが定義する市場分類地域に従い、210箇所の地域に分類して調査を行った。このようにして、210カ所に分類された各地区ごとの週単位のインポッシブル・バーガーの広告視聴数と広告費用を得た。
本研究では、広告の露出強度を測るために、総合値を求める代わりに、顧客一人当たりの広告効果(あるいは一人当たりのウェブ・ビュー数が1回増加するのに費やした資本)、および一人当たりの広告費用を計算した。
実店舗でのバーガー購入データは、ニールセン・ホームスキャン・パネルから得た。このデータには、世帯ごとの食料品店での購入品が記録されている。本研究では、各世帯ごとのインポッシブル・バーガー、インポッシブル・バーガー以外のビーガン・バーガー、白身肉のバーガー、赤身肉のバーガーの購入記録をデータとして利用した。このため、データセット内の世帯がバーガー消費者であることを確実にする必要があり、2017年~2020年の間に少なくとも1回はバーガー製品を購入した世帯のみをデータセットに含めた。
消費者のタイプを区別するために、以下の3つの変数を導入した。
- VB … インポッシブル・バーガー購入者のうち、過去6か月以内に他のビーガン・バーガーも購入した消費者
- MB … インポッシブル・バーガー購入者のうち、過去6か月以内に肉バーガーも購入した消費者
MB については、さらに詳しく下記の2タイプに分類した。
2-1. WB … 白身肉バーガー購入者
2-2. RB … 赤身肉バーガー購入者
詳しいデータの分類分けプロセスは図4に掲載されている。本研究では、肉消費者とビーガン消費者については特に区別をせず、対象となる消費者が買い出しで購入したバーガー製品の好みのみを分析するに留めた。
図4:データの処理手順

下記の表1が示すものは、2019年9月27日~2020年末の間の合計55,265回のバーガー製品買い出しを分析した統計結果の概要である。しかしながら、図5が示すように、インポッシブル・バーガー購入世帯の70%は、インポッシブル・バーガーを一度きりしか購入しなかった。
表1:統計結果の概要
変数 | 全地域の合計値 |
(1)対象となる世帯数 | 19,545 |
(2)世帯ごとのバーガー製品を買い出しにいった平均回数 | 2.99 |
(3)期間中にインポッシブル・バーガーを購入した世帯数 | 884 |
(4)期間中に他のビーガン・バーガーを購入した世帯数 | 3,467 |
(5)期間中に肉バーガーを購入した世帯数 | 17,117 |
(6)(3)のうち、6か月以内に他のビーガン・バーガーも購入した世帯数 | 201 |
(7)(3)のうち、6か月以内に肉バーガーも購入した世帯数 | 144 |
(8)(3)のうち、6か月以内に他のビーガン・バーガーと肉バーガーも購入した世帯数 | 156 |
(9)(3)のうち、6か月以内にインポッシブル・バーガーのみを購入した世帯数 | 383 |
(10)インポッシブル・バーガーを購入した買い出しの総数 | 1,471 |
(11)他のビーガン・バーガーを購入した買い出しの総数 | 8,470 |
(12)肉バーガーを購入した買い出しの総数 | 45,324 |
(13)インポッシブル・バーガーの平均単価($) | 7.23 |
(14)他のビーガン・バーガーの平均単価($) | 5.25 |
(15)肉バーガーの平均単価($) | 6.21 |
(16)地区ごとのインポッシブル・バーガーの資本広告の平均強度 | 7,076,276 |
(17)一人当たりの地区ごとのインポッシブル・バーガーの資本広告の平均強度 | 0.29 |
図5:インポッシブル・バーガーを購入した買い出しに行った世帯数

4.モデル化手法
訳注:本セクションも、少々統計学的な専門的な内容となるため省略する。興味ある方は原文のセクション4を参考のこと。
5.結果
訳注:統計分析結果の解釈については、セクション4のモデル化手法の解釈と知識が必要となるため、ここでは省略する。最終的な結果については、表A1に掲載された全結果、およびセクション7の結論を参照のこと。
6.堅牢性の検証
訳注:堅牢性の検証は、統計学において前提となる要素が変化したときの結果のゆらぎを検証するものであるが、専門的な内容のため省略する。興味ある方は原文のセクション6を参考のこと。
7.結論および今後の議論(一部省略)
表A1:共変量を考慮した完全な回帰分析結果
変数 | インポッシブル・バーガー購入確率 |
一人当たりの広告ビューを増やすための資本追加 | 0.757 |
インポッシブル・バーガーの値段を1ドル上げる | −0.014 |
過去6ヶ月以内に他のビーガン・バーガーを購入した場合 | 0.034 |
過去6ヶ月以内に白身肉バーガーを購入した場合 | −0.013 |
過去6ヶ月以内に他の赤身肉バーガーを購入した場合 | −0.023 |
過去6ヶ月以内に他のビーガン・バーガーを購入した消費者への一人当たりの広告ビュー増加の資本追加 | 0.205 |
過去6ヶ月以内に他の白身肉バーガーを購入した消費者への一人当たりの広告ビュー増加の資本追加 | −0.583 |
過去6ヶ月以内に他の赤身肉バーガーを購入した消費者への一人当たりの広告ビュー増加の資本追加 | −0.584 |
1世帯に住む総人数 | −0.003 |
世帯主がシニア世代である | −0.014 |
世帯主が高学歴である | 0.010 |
世帯主が失業している | 0.001 |
世帯主が結婚している | 0.003 |
世帯主がアフリカ系アメリカ人である | −0.013 |
世帯主がヒスパニック系人である | 0.002 |
世帯主が低所得者層である | −0.006 |
世帯内でインターネットが利用可能である | 0.005 |
世帯内でケーブルテレビが利用可能である | −0.004 |
世帯内で電子レンジが利用可能である | −0.002 |
世帯がWIC(栄養強化プログラム)に参加している | −0.021 |
世帯内に子供がいる | 0.002 |
定数 | 0.150 |
集計データ数 | 58,447 |
𝑅2 | 0.041 |
北米におけるプラントベース・バーガー市場は、プラントベースのたんぱく質の需要が伸びているため、2030年までに2億4100万USドルに成長すると予測されている。インポッシブル・バーガーの広告は、消費者に同新商品を試してもらうよう勧誘したという点では成功であった。ビーガン・バーガー消費者は、インポッシブル・バーガーの広告を見た後で実際に同商品を購入することで、インポッシブル・バーガーへの好みを示した。本研究では、過去にビーガン・バーガーを購入した消費者層に対して、
・インポッシブル・バーガーのウェブ広告の一人当たりのビュー数が1回増えるよう資本追加すると、同商品の購入確率が75.7%上昇する
という結果となった。
一方、インポッシブル・バーガーがいかに本物の肉に似ているか、という販売戦略への取り組みにも関わらず、過去に肉バーガーを購入した消費者層へはまだその魅力を伝えきれていない。
・肉バーガー購入層へ、インポッシブル・バーガーのウェブ広告の一人当たりのビュー数が1回増えるよう資本追加すると、インポッシブル・バーガー購入の確率は17.3~17.4%というわずかながらの増加
が見られた。肉バーガー購入層は、どうやら新しい代替肉商品にたいして、わずかな関心しか持っていないようであり、過去に白身肉バーガー、あるいは赤身肉バーガーを購入した場合、インポッシブル・バーガーを購入する確率はそれぞれ
・過去6ヶ月に白身肉バーガーを購入した者:インポッシブル・バーガーを購入する確率に1.3% の減少
・過去6ヶ月に赤身肉バーガーを購入した者:インポッシブル・バーガーを購入する確率に2.3%の減少
が見られた。新しい食べ物に対する嫌悪症がこの原因かもしれない。おそらく、多くの人は、最初の一口を食べただけで、代替肉バーガーは本物の肉バーガーとは違う、という認識を持ってしまうのかもしれない(Caputo et al., 2023)。どんなに代替肉バーガーが味がよくて、見た目も肉バーガーに似ていても、全バーガー市場の90%を占める肉バーガー消費者層にその魅力を伝えるのは難しいようだ。
さらに、以下の傾向を発見した。
・世帯主がシニア世代、あるいはアフリカ系アメリカ人の場合、あるいはWIC(婦人・子供向けの栄養強化プログラム)に参加している世帯は、インポッシブル・バーガーの購入確率が減少する
・世帯主が大学卒以上の高学歴の場合、インポッシブル・バーガー購入の確率が増加する傾向がある
さらに、本研究では代替肉バーガーを繰り返し購入するように消費者を維持することが難しいことも発見した。本研究の調査では、インポッシブル・バーガーを購入は2回以上購入した世帯は約30%しかなく、3回以上購入した世帯は、14%以下であった。従って、代替肉バーガーの製造業者にとって、自社製品の熱烈な購入者を開拓することはまだ難しいと思われる。本研究は、新たな研究分野を切り開いた。焦点を当てる価値のありそうな分野は、様々な種類の広告に対して異なるグループの消費者がどう反応するか、である。もうひとつの可能性としては、食品に対する好みや反応(とりわけプラント・ベースの代替肉市場が人気を広げている中で)が今後どのように変換していくかを、本研究を起点として調査することである。
本研究の発見に基づくと、プラント・ベースのバーガーの広告は、ビーガン・バーガーのファンほどには、肉バーガーのファンを効果的に引きつけなかったであろうことが明らかである。つまり、Impossible Burger社のようなプラント・ベースの代替肉製造業者は、様々な好みを持つ異なる消費者グループごとに、売り込み戦略を変更・調整する必要があることを示唆している。こうするためには、特定の好みや生活様式を持つ人々の要求に応えられる様々な商品ラインアップを製造・販売促進する必要があるということである。さらに、根深く染み付いた習慣を変えるには、広告だけでは限界がある、ということを認識することが重要である。より幅広い訴求方法、例えば教育、健康に関する専門化と協力する、料理講習会を開催する、といったことが、広告よりも消費者に影響を与える可能性があるかもしれない。消費者たちが広告に対してどのように反応するか、何が彼らの購買意欲をかきたてるのか、を理解することで、プラント・ベースの代替肉製造業者は、より多くの消費者を引きつけ、自社の立場を固守できるのである。
訳注:ライセンスについて
本論文はもともろCC BY-NC-ND 4.0 (Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International、クリエイティブ・コモンズ 非営利・改変禁止)のライセンスに基づき公開されていたものであるが、ファーストオーサーのLingxiao Wang 氏の了解を得て、日本語への翻訳、および内容の抜粋を行った。Wang 氏にはここに感謝の意を表する。
Lingxiao Wang, Wenying Li, Yuqing Zheng
2024/02/17
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