論文概要
モラルに訴えることで、炭素排出量の少ない食生活へと人々を動かすことは可能だろうか? 本研究では、米国の回答者1520人を対象として強制選択を用いたコンジョイント・サーベイ実験を実施し、2種類のメニューを6つの次元(カーボンフットプリント*1 値を表示したハンバーガー・サンドイッチのパティ、全体のカロリー含有量、タンパク質の含有量、価格、食材の産地、農法)で比較することを求めた。これらの次元の数値は、各メニューにおいてランダムに変化させた。さらに、気候変動対策を推進する理由に関して、その科学的根拠を強調する基準フレーム*2、宗教を離れた道徳上の観点からの動機を説明した処理フレーム、道徳的かつ宗教的な観点から動機を説明した処理フレーム、のいずれかの条件へ参加者を無作為に割り当てた。
その結果、炭素排出量の低い食品の選択に対して、モラルへの訴えは影響していないことがわかった。全体を通して回答者は、カーボンフットプリントの高い非ベジタリアンメニューを好む傾向があり、食品の味を重視する回答者はベジタリアンメニューをあまり選んでいなかった。しかし、一部のサブグループではベジタリアンメニューを好む傾向が確かにあり、これには例えば、女性、気候変動に対する意識が高くベジタリアン食に接したことがある人、食事の選択が健康に与える影響を考慮する人などが含まれる。
結論として、気候変動に配慮した食料システムへの移行において、モラルに訴えて個人の食事選択を大きく変えることは難しいと思われる。食生活における嗜好は、気候問題についての考え方や個人の社会的属性によって影響されている。
*1 製品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至る過程を通して排出される温室効果ガスの総量。カーボン(CO2 )の排出量に換算して表示される。*2 フレームは、情報に対する見方・受け止め方、物事や人への印象や意味を左右する心理的枠組みを指す
Nela Mrchkovska, Nives Dolšak, Aseem Prakash
2024/02/23
Morality meets menu: investigating the impact of moral appeals on vegetarianism through a conjoint survey experiment