論文概要
炭素価格(カーボンプライシング)*1 は、気候変動に取り組むうえで強力な手段となるが、政治的には議論の分かれる問題である。しかし、炭素価格から得られた歳入の使途を政府が適切に調整すれば、炭素価格に対する国民の支持を集められる可能性がある。本研究では、ドイツ国民を代表する大規模サンプルを対象として、現実的な金銭的インセンティブを付けた実験を実施し、5つの異なる炭素価格制度に対する有権者の支持率を比較した。
その結果、炭素配当*2 を一律にすべての国民に一人当たり均等に分配する制度は、経済的に貧しい人々を炭素配当で優遇する制度に比べて大幅に高い支持が得られること、また歳入を気候変動プロジェクトに充当したり、特に一般会計予算に充当したりする制度と比べてもより高い支持が得られることがわかった。
一律の炭素配当に関しては、炭素価格から予想される歳入と同額の気候割増金を前払いで支払う制度は、実際の歳入に基づいて分配額を事後的に決定する制度に比べて支持される割合が高かった。また、炭素価格制度に対する国民の支持は、参加者と専門家による評価では実際よりも低く見積もられていることもわかった。
これらの結果から、持続可能な発展のための政策措置としてより高い支持が得られるのは、有権者が負担するコストが一律に補償される制度であると考えられる。本研究はさらに、このような政策が国民に支持されているかどうかを検討する際にはインセンティブ付き実験が重要であることを強く示している。
*1 食肉の生産と消費が温室効果ガス排出に大きく影響するため、炭素価格を導入することで肉の価格が上昇し、消費を抑制する可能性がある *2 炭素価格制度によって発生する費用(炭素税の支払い、排出権の購入など)を、政府や企業が環境対策のために使用するのではなく、国民に分配する制度を指す
Andrej Woerner, Taisuke Imai, Davide D. Pace & Klaus M. Schmidt
2024/11/21
How to increase public support for carbon pricing with revenue recycling