論文概要
概要
※本記事はこの記事の最下部にある論文のFaunalyticsのリサーチャーによる要約を、同団体の許可を得て翻訳したものです。
この研究によると、新興国内のサメの保護区は、その国の漁業従事者の経済的損失を増加させ、さらには漁業従事者との対立をも増加させる可能性がある、とのことである。
要約
全てのサメの種のうち、ほぼ四分の一が絶滅の危機に瀕している。2009年以降、17カ国でサメの保護区が設けられ、保護区内でのサメの商業目的の捕獲、取引、所有、販売が違法行為とされている。ところが、サメの生息数が回復すると、サメと人間との間で共有資源(例えば魚など)をめぐる争いが発生する傾向がある。
サメによる略奪や破壊行為(サメが漁業用具を壊したり、捕獲した魚を食べてしまうこと)の件数は増加傾向にあり、これにより、バハマ連邦、およびモルディブでは、サメの保護区の撤廃を求める声が上がっている。効果的にサメの保護を行うならば、このようなサメによる略奪・破壊行為の問題に対する対処方法が必要である、とこの研究の著者たちは主張している。
この研究の目的は、モルディブでの漁業従事者とサメとの相互の関わり合い、およびサメによる略奪・破壊行為を調査することであった。モルディブでは、サメの漁獲量が減少していたこと、およびサメと出会えるダイビング観光事業が重要な収入源となっていたことから、2010年以降、自国の排他的経済水域をサメの保護区として指定している。
本研究の研究者たちは、遠洋漁業者および沿岸漁業者ら103名に定型アンケートを実施し、これら漁業関係者たちが認識するサメとの関わり合い、およびサメによる略奪・破壊行為について調査した。研究者たちはさらに参加型地図作成方式を使って、57名の沿岸漁業従事者から、自分たちの漁業活動地域とサメの生息地域が重複している場所を導き出してもらった。そして、10箇所の地点での50時間に及ぶ水中ビデオカメラで撮影した映像を分析し、沿岸地域のサメの生息数を割り出した。
アンケートに答えた人の大多数は男性で、平均年齢は46歳、平均すると20年以上の漁業経験を持っていた。全体のうち、56%は沿岸漁業者、26%は釣り竿を使う遠洋漁業者、18%が釣り糸を手で直接操る遠洋漁業者であった。81%の漁師たちは自営業者であり、67%の漁師たちは生計費の4分の3以上を漁業に頼っていた。本研究の対象者の中で元サメ漁業者が占める割合は、全体の中では35%、沿岸漁業者の中では63%を占めていた。サメの保護区が設立されたあと、これら元サメ漁業者のうち、75%は沿岸漁業へ切り替えており、16%は釣り糸を直接手で操る遠洋漁業へ切り替え、9%が釣り竿を使う遠洋漁業へ切り替えていた。
沿岸漁業者たち、および釣り糸を直接手で操る遠洋漁業者たちの大部分は、サメとの関わり合いにより不利益(漁獲物の略奪、器具の破損など)を被っていた。一方、釣り竿を使う遠洋漁業者たちの75%以上が、有益なサメとの関わり合いを報告していた。その理由は、サメの存在によりマグロが海面付近に駐留するため、漁の成功率改善の手助けとなっているためである。釣り竿を使う遠洋漁業者たちがサメとの関わり合いで不利益を報告したのは、生き餌を使って漁をする場合のみであった。
沿岸漁業者たちの報告によると、彼らの日々の収入のうち、約5分の1がサメによって失われているという。釣り糸を直接手で操る遠洋漁業者たちのサメによる損失はわずか2%だけで、釣り竿を使う遠洋漁業者たちの場合は0.2%であった。一度もサメ漁をしたことがない漁師たちよりも、サメの保護区が設立される以前にサメ漁をしていた漁師たちが報告するサメによる損失のほうが、より高額であった。
サメによる略奪・破壊行為を避けるために、74%の漁師たちは漁のやり方に様々な適応手段を実施していた。例えば、漁をする場所の変更(91%)、餌を変える(17%)、サメを殺す(12%)、その日は漁を中断する(2%)等々といった適応手段である。釣り竿を使う遠洋漁業者たちの大部分はサメの保護区の規制を支持していたが、沿岸漁業者たちは規制に反対していた。釣り糸を直接手で操る遠洋漁業者たちの間では意見が分かれた。サメによる漁業器具の破損が大きいと報告した漁師たちは、破損の大きさに比例してサメ保護区の規制に対して否定的であった。サメによる漁獲物の略奪が多いと報告した沿岸漁業者たちも、略奪の多さに比例して規制に対して否定的であった。
漁師たちの大半は、サメによる略奪・破壊行為が増加したのは、サメの保護区が設立されてからのちのことであり、その原因はサメの数が増加したからだ、と感じていた。しかし、複数の研究が示すところによると、沿岸のサメの生息数に変化はなかった。本研究による参加型地図とビデオ動画分析の結果、漁に適した場所ではサメの数がとりわけ多い、ということを発見した。すなわち、これが原因でサメと人間の衝突のリスクが高まっているのである。
沿岸地域では漁がより盛んに行われており、漁に適した場所ではサメの数がとりわけ多いため、漁師たちは以前よりもサメと関わり合う可能性が多くなっている、と考えられる。さらに、サメが船を見ると食べ物を連想するようになったため、船がいる場所を探し求めるようになった可能性もある。サメが多く出没する場所は、沿岸部全体と比べると狭い地域なので、沿岸部の漁場内で、漁をする場所を定期的に変更している漁師たちは、サメによる略奪・破壊行為を減らせる可能性がある。
本研究の研究者たちは、水産業社会は様々な人やグループで成り立っているのだ、ということを忘れないようにすることが大切である、と述べている。漁師たちには、各々異なる意見があり、規則のうちのいくつかは、ある特定の漁師グループのみにとりわけ大きな不利益を生じさせる可能性もある。漁師たちの利益と、サメの生息数保護の両方を実現する解決策を策定するために、研究者たち、および政策立案者たちは、様々な漁師たちのグループの意見に耳を傾けなくてはならない。
総括すると、本研究は、生物多様性保護と人間の利益保護(とりわけ低収入の小規模漁業者たちの利益保護)の間には、トレードオフが存在することを浮き彫りにしている。漁業者とサメとの関わり合いの機会が増加すると、モルディブやその他の新興国の貧困と飢えを減少させることがより困難になる可能性がある。
Ravali Amba
2024/01/23
Navigating Shark-Fisher Conflicts