論文概要
畜産動物のために健康上の問題を最小限に抑え、自然に行動できる環境を整えることは、アニマルウェルフェアの観点からは重要であるが、人々の間で意見の分かれる問題である。これまでの一般的な考え方では、人々は畜産動物が自然に行動できることを重視しており、健康上の問題に対する取り組みなど、アニマルウェルフェアに関する他の側面より優先度が高いものとされてきた。しかし、人々の視点は一般に考えられているよりも多面的であり、アニマルウェルフェアに関する個々の問題がどれくらい重要かは、その動物がおかれている状況や状態によって異なる。
この点について検証するため、動物の健康状態(良好 vs. 不良)および自然に行動できるかどうか(良好 vs. 不良)を要因として実験的に操作したヴィネット調査を実施し、(年齢・性別・民族に関して)英国の人口構成を代表する参加者 810名に回答を求めた。
従来の一般的な見方とは異なり、参加者の判断に最も大きな影響を与えていたのは動物の健康状態であり、他の要因に比べて、アニマルウェルフェアに関する評価の違いに大きく寄与していることがわかった。しかし、アニマルウェルフェアに関して最も肯定的に評価されていたのは、健康に関する問題が最小限に抑えられると同時に、自然な行動をとれるような環境が推進されている場合であった。
また、自然な行動に関する考え方は参加者の間で違いがあり、女性や肉を(習慣的には)食べない人、動物に心があると考えている人は、動物が自然に行動できることをより重視していた。
アニマルウェルフェアに関する社会の要請に応えるためには、行政や民間による基準が求められるが、本研究の結果はこれに対して重要な知見を提供するものである。アニマルウェルフェアについての人々の考え方は、これまで考えられていた以上に微妙なものであり、動物がおかれている状況や、ウェルフェアに関して具体的に問題となる側面、人々の個人レベルの特性によって影響されている。
Belinda Vigors, David A. Ewing, Alistair B. Lawrence
2021/03/03
Happy or healthy? How members of the public prioritise farm animal health and natural behaviours