論文概要
近年、食料システムの持続不可能性に関する認識が広まり、根本的な変革を求める声が高まっている。畜産業の役割は、こうした議論の多くで中心的な位置を占めており、動物由来の食品の生産と消費を植物由来の代替品や「代替タンパク質」に置き換える「タンパク質転換」の可能性に関心が集まっている。この転換が持続可能性にもたらす潜在的な意義にもかかわらず、今後の関連技術の発展の方向性および変革の見込みについては十分に解明されていない。
本稿では、これらの変動過程を明らかにするため、以下の2つの問題を取り上げる。1.代替タンパク質のイノベーションは、過去30年間でどのように発展してきたのか? 2.これらのイノベーションを最近さらに加速させている要因は何か? これらの問題に答えるため、代替タンパク質をめぐる4つのイノベーション*1と、1990年から2021年にかけて畜産システムの一部に生じた不安定化に関して、マルチレベル・パースペクティブ*2の枠組みで実証的分析を行った。
この分析によって、代替タンパク質の開発と普及に対して、企業の関与が激化していることが明らかになった。企業の関与におけるこのような加速は、より大規模な企業の方向転換の始まりと一致していると考えられ、畜産システムに対する圧力の高まり、とりわけ気候変動と食肉消費との関連に対する科学的コンセンサスと社会的認識の高まりと並行して起こっている。4つのニッチ・イノベーションは、持続可能性の転換に適した潜在的な変革圧力となるとともに、それぞれの技術的成熟度に違いがあるため、代替タンパク質ニッチの普及という点では異なる形をとって出現してくる。
*1 プラントベース代替肉・単細胞タンパク質・精密発酵・培養肉の4種類の技術を指している *2 社会科学で、最初はニッチとして認識された新しい技術が徐々に社会全体に受け入れられ,最終的に大きな社会変革をもたらすプロセスを捉えるフレームワーク
Josephine Mylan, John Andrews, Damian Maye
2023/11/13
The big business of sustainable food production and consumption: Exploring the transition to alternative proteins