論文概要
背景: 肉類の摂取と虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞など)を発症するリスクの関連については、これまでに明確なエビデンスが得られていない。同じ食事内容に対する代謝反応には個人差があるが、これによって両者の関連をどの程度まで説明できるのかについてはよくわかっていない。本研究では、未加工の赤肉および加工肉の摂取を反映するメタボローム・シグネチャーを特定し、これらが虚血性心疾患のリスクと関連しているかどうかについて検証した。
方法・結果: 英国バイオバンク UK Biobank のデータを用いて、92,246人(平均年齢56.1歳、女性55.1%)を対象としたコホート調査を行った。追跡期間の中央値は8.74年で、虚血性心疾患として3059件の発症が記録されていた。未加工の赤肉および加工肉の摂取量については、タッチスクリーンの食事質問票を用いて調査した。血漿メタボロームのプロファイリングにはハイスループット核磁気共鳴分光法を用いた。肉の摂取と虚血性心疾患の関連について、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて検証した。メタボローム・シグネチャーおよびその虚血性心疾患との因果関係について、ゲノムワイド関連解析と1標本メンデルランダム化を行った。エラスティックネット正則化回帰を用いて構築したメタボローム・シグネチャーには、未加工の赤肉について157種類(スピアマン相関係数 r = 0.223)、加工肉については142種類の代謝物(r=0.329)がそれぞれ含まれていた。
これらのメタボローム・シグネチャーでは、虚血性心疾患の発症との間に正の関連が見られた(赤肉に関連するシグネチャー:1 標準偏差の増加に対するハザード比 1.11[95%信頼区間 1.06 – 1.16]、P<0.001; 加工肉に関連するシグネチャー:ハザード比 1.16 [1.11 – 1.21], P<0.001)。ゲノムワイド関連解析では、脂質・リポ蛋白の代謝に関わる遺伝子座のうち、赤肉に関連するシグネチャーとして45個、加工肉に関連するシグネチャーとして45個をそれぞれ特定した。メンデルランダム化により、虚血性心疾患の発症リスクとシグネチャーの間には因果関係があることが明らかになった。
結論: 未加工の赤肉と加工肉の摂取を反映するメタボローム・シグネチャーを特定した。これらのシグネチャーは虚血性心疾患の発症リスクの上昇と関連している。
* 生体内の代謝物の量や種類を測定したプロファイル
Xue Dong, Zhenhuang Zhuang, Yimin Zhao, Zimin Song, Wendi Xiao, Wenxiu Wang, Yueying Li, Ninghao Huang , Jinzhu Jia, Zhonghua Liu , Lu Qi, Tao Huang
2023/04/04
Unprocessed Red Meat and Processed Meat Consumption, Plasma Metabolome, and Risk of Ischemic Heart Disease: A Prospective Cohort Study of UK Biobank