論文概要
気候変動に対する責任が人間活動にあるという考え方は、特に化石燃料の生産をはじめとする企業活動にまで広く及んでいる。畜産に起因する温室効果ガス排出は、人為による温室効果ガス全体の排出量のうちの14.5%と推定されているにも関わらず、その気候変動への影響については、これまで主に畜産に関わる業界全体に関してのみ分析されてきた。
本研究では、食肉・乳製品の生産で世界最大規模の企業35社における気候変動緩和への取り組みを調査し、このうち2050年までに正味の排出量をゼロにすると明言している企業が4社あることがわかった。しかし、これらのコミットメントは概してエネルギー使用の緩和に重点を置いたもので、農業部門における温暖化の最大の要因である畜産と土地利用からの排出(メタンなど)に関してはわずかに触れるにとどまっていた。
さらに、現状のシナリオにおいて各企業が世界全体で排出すると予想されるガス排出量と、企業が本社をおく国における将来のガス排出量を、各国がパリ協定へのコミットメントを遵守するとの仮定のもとで比較した。ガス排出の責任と排出量会計に関するこのような考え方は、パリ協定における責任の概念とは異なるものであるが、この分析結果によれば、食肉・乳製品の工場生産において企業が世界で排出するガスの総量を(本社をおく国の)国家会計に含める場合、その国における温室効果ガスの削減目標に大きく影響することになる。例えば、ニュージーランドのフォンテラ、スイスのネスレの2社は、今後10年間で本社をおく国が目標とする総排出量の100%以上を占めることになる。
最後に、米国における食肉・乳製品の生産企業10社について、20項目のYes-Noの質問および様々な情報源を用いて、排出量報告の透明性・気候緩和へのコミットメント・世論や政治への影響力を評価した。ここで収集された情報によれば、これらの米国企業10社はすべて、気候変動に関する政策を妨げるような取り組みに関わっていた。
これらの分析ではそれぞれ、従来とは異なる新しい方法によってガス排出の責任の問題にアプローチした。気候変動によって引き起こされる社会状況の急速な変化のもとで、温室効果ガス排出に対する責任についての新しい考え方や、気候変動の影響に対する企業主体の役割とその説明責任への注目が高まることが予想される。
Oliver Lazarus, Sonali McDermid, Jennifer Jacquet
2021/03/25
The climate responsibilities of industrial meat and dairy producers