論文概要
水産養殖はかつてない成長を遂げつつあり、食料安全保障の確保に関する議論もこれを後押ししている。しかし、水産養殖を一枚岩のものとして捉えると、そこには極めて多様な生物種が含まれているのを見落とすことになる。本稿では水生生物のアニマルウェルフェアに関して、こうした多様性に関連するリスクを検証し、生物種ごとに親による子育ての段階から長い生存期間の全体までにわたってリスクに関わる7種類の要因を特定した。
国連食糧農業機関(FAO)に報告されているすべての水生生物を対象として、アニマルウェルフェアに関するこうしたリスクを調査したところ、脊索動物・甲殻類・頭足類の軟体動物では、生物種によって極めて高いリスクが見られるなど、リスクの分布の仕方は均一でないことが明らかになった。また、アニマルウェルフェアに関して極めて大きなリスクのある生物種では、リスクの少ない生物種に比べて生産コストが高いのに対し、世界の水産養殖に寄与する割合は最小であることがわかった。
これまでアニマルウェルフェアを優先させることは食料安全保障とは相容れないとされてきたが、本研究ではこうした従来の考え方に対して異議を唱えるとともに、海藻や二枚貝のように手頃な価格で入手可能な一部の植物種や無脊椎生物を特定することによってアニマルウェルフェアに関する懸念を最小限に抑えられる可能性を見出した。今後は、アニマルウェルフェアのための積極的なアプローチによって消費者の選択に役立つ情報を提供し、公正で持続可能な水産養殖に向けた政策を形成していく必要がある。
Chiawen Chiang, Becca Franks
2024/10/18
Disaggregating animal welfare risks in aquaculture