論文概要
肉の消費を減らすことによって、人間の健康を改善し、環境破壊を抑制し、工場畜産で飼育される膨大な動物たちの苦しみに歯止めをかけられる可能性がある。これまで肉の消費を減らすために関心が向けられたのは、食品を選ぶ環境を再構築することや健康や環境に訴えることがほとんどであった。しかし、心理学の理論によれば、アニマルウェルフェアへの配慮を訴える介入方法は、これとは別の強力な仕組みで作用する可能性がある。
我々は、こうした介入手法の有効性を評価するために、(既存データについての)体系的な再検証とメタ分析を行った。8つの学術データベースを検索するとともに、一般の流通経路に乗らない資料(灰色文献)も広汎に検索した。メタ分析の対象となった100件の研究は、以下の基準を満たしていた:畜産動物について言及・描写したうえで肉の消費・購入を減らすための介入方法について調査していること、肉の消費・購入やその意図に関して行動レベルでの効果または自己報告による効果を測定していること、比較対照条件を有していること。
このような介入によって肉の消費・購入・意図は、少なくとも短期的には一貫して減少しており、非常に大きな効果が見られている(メタ分析平均リスク比[RR]=1.22;95%CI:[1.13, 1.33])。母集団の効果量はその大部分でRR=1.1より強く(71%;95%CI:[59%、80%])、また介入がその意図しない方向に作用したことはほとんどないと推定された。メタ回帰により、個々の研究・介入に固有の特徴のうち効果量に関連するものをいくつか同定した。(研究計画や解析手法、社会的望ましさ*1、汎化可能性などにおける)バイアスに関するリスク評価では、ここで対象となったこれらの研究の方法論的な長所および限界が特定された。しかし、バイアスのリスクが極めて低い研究に限って行った感度分析においても結果に大きな違いはみられなかった。出版バイアス*2は見られなかった。
結論として、主に自己報告による効果を検証したこれら短期的な研究においては、アニマルウェルフェアに訴える介入策は、暫定的には有効と思われる。今後の研究では、介入策の効果に対する直接的な行動指標を使って、社会的望ましさのバイアス*の可能性を最小化し、より長期にわたる追跡調査で測定していく必要がある。
*1 社会科学研究において、回答バイアスの一種で調査回答者が他の人から好意的に見られる方法で質問に答えようとする傾向のこと *2 否定的な結果が出た研究は、肯定的な結果が出た研究に比べて公表されにくいというバイアス(Wikipedia より抜粋)
Maya B. Mathur, Jacob Peacock, David B. Reichling, Janice Nadler, Paul A. Bain, Christopher D. Gardner, Thomas N. Robinson
2021/09/01
Interventions to reduce meat consumption by appealing to animal welfare: Meta-analysis and evidence-based recommendations