論文概要
本研究では、感染症の伝播に関する時間的・地理的パターンを入手可能なデータから探るとともに、人口動態・人為による土地利用の変化・畜産の拡大・生物多様性の喪失との関連について検討する。過去数十年において、人獣共通感染症や(細菌や寄生虫など)ベクター媒介性疾患の発生が増加してきたが、そのほとんどは亜熱帯地域においてである。一方、耕作地・草地・植林地・養鶏を含む畜産が拡大し、生物多様性への脅威(レッドリスト指数による)が増大したのも、その大半は亜熱帯地域である。
構造方程式モデリングによる分析では、感染症のアウトブレイクと人口動態、畜産(牛・豚・鶏)、植林、人為による土地の拡大には有意な関係があり、さらに生物多様性への脅威が増加していることにも有意な関係があることがわかった。
農業の拡大は、生物多様性の喪失と潜在的な感染症が発生する原因の一つと考えられているが、この分析からは、農地・草地の拡大から直接に疾病の発生が増えるのではなく、生物多様性が失われた農地でのみ間接的に増大していると思われる。
感染症のアウトブレイクと人口動態、農業、畜産、都市化、生物多様性の間に見られた関連からは、感染症のリスクを最小化するとともに、生物多様性を保全し、持続可能な目標の達成に寄与する方向へと世界の食糧システムを再考するうえで役立つはずである。
Serge Morand
2022/12/21
The role of agriculture in human infectious disease outbreaks