論文概要
一部の理論的知見によれば、人々は動物の知的能力を過大評価(擬人化)しているとされるが、これとは反対に、人々は動物に心があることを否定しているとする知見もある。しかし、一般にこれまでの研究では、人々の判断についての客観的な基準を用いていないため、動物に関する判断の正確さや妥当性については検証できなかった。
本研究では、記憶課題を用いた9つの実験(事前登録8件、参加者数=3,162人)を実施し、判断が正しいか誤っているかを明確に検証できるようにした。参加者に動物の知能や行動に関する記事* を提示した後、記事の内容に関するテストを実施し、参加者の擬人化バイアス—動物に心があるとする情報を(心がないとする情報に比べて)より正しく記憶している傾向—を検証した。
肉を食べる人では、犬などのコンパニオンアニマルについての記憶には擬人化バイアスが見られたが、豚などの食用動物についての記憶にはこうした傾向は見られなかった(実験1-4)。一方、ベジタリアンとヴィーガンでは、食用動物とコンパニオンアニマルのいずれでもこうした擬人化バイアスが一貫して見られた(実験5・6)。
続いて1週間後に行ったテストでは、肉を食べる人も食べない人も、動物に心があることを否定するバイアスへと移行する傾向を示した(実験2・3・6)。これらのバイアスは、動物の心に関する信念に大きく影響しており、動物の心を否定するように記憶バイアスを誘導した場合、参加者は動物の心があまり高度なものではないと見るようになった(実験7-9)。
本研究の結果から、動物の心に関する記憶は、予想の通り、現実とは異なるものになることがあること、さらにこのような乖離が動物の知的能力に対する偏見を生み出す一因となり得ることが明らかになった。
* 記事は Frans de Waal 著 “Are we smart enough to know how smart animals are?”(邦題「動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか 」) などを引用した内容で、本論文のタイトルもこれを踏まえたもの
Stefan Leach, Robbie M Sutton , Kristof Dhont, Karen M Douglas, Zara M Bergström
2023/04/13
Are we smart enough to remember how smart animals are?