論文概要
英国における温室効果ガス排出目標を達成するため、気候変動委員会*1では2030年までに肉と乳製品の摂取量を現状より20%削減するよう勧告している。本研究では、食品の購入動向と肉・乳製品を削減する政策に沿ったシナリオを選び、食生活の変化が温室効果ガス排出量と水使用量に与える影響をモデル化した。ここでは、財政措置を実施し、代替肉の生産における技術革新を促進することで、既に見られている望ましい傾向をさらに加速させることができ、気候変動委員会による2030年の目標としての肉・乳製品の20%削減を達成し、果物と野菜の摂取量を増やすうえで有効であることを明らかにする。
英国で実施されている「生計費・食品調査(家庭食品項目)」では、約5,000世帯の代表的なサンプルにおける食品と飲料についての全購入量が記録されている。このうちの2001年から2019年のデータを用いて、2030年における4種類の食事シナリオをモデル化した。すなわち、現状のままで特に対策を講じない「現状維持」のシナリオ、2種類の「財政政策」シナリオ(肉・乳製品への課税10%と果物・野菜への補助金10%、または肉・乳製品への課税20%と果物・野菜への補助金20%)、プラントベース食品および培養動物性タンパク質で従来の肉・乳製品を代替する「イノベーション」のシナリオである。
2019年の水準と比較した場合、各シナリオでは肉類で5~30%、乳製品で8~32%の削減が予測された。食肉の削減割合は、財政20%シナリオで21.5%、イノベーション・シナリオで30.4%に達することが見込まれる。すべてのシナリオにおいて、果物と野菜の摂取量は3%~13.5%の範囲で増えると予測され、中でも財政20%シナリオにおける増加率が最も高かった(13.5%)。
温室効果ガス排出量と水使用量の削減幅は、イノベーション・シナリオにおいて最も高く(-19.8%および-16.2%)、続いて財政20%シナリオ(-15.8%、-9.2%)、財政10%シナリオ(-12.1%、5.9%)、現状維持シナリオ(-8.3%、-2.6%)となっていた。平均的な世帯と比較して、低所得世帯でも同様の変化パターンが見られたが、肉・果物・野菜の購入量および環境フットプリント*2は、過去のデータではより低く、予測値においてもより低くなっていた。
*1 英国政府から独立した公的機関で、2008年の気候変動法に基づいて設立された *2 温室効果ガスによる気候変動への影響だけでなく、人体の健康・生活の質・生態系など複数の環境影響領域を評価して数値化したライフサイクル環境影響評価
Silvia Pastorino, Laura Cornelsen, Sol Cuevas Garcia-Dorado, Alan D Dangour, James Milner, Ai Milojevic, Pauline Scheelbeek , Paul Wilkinson, Rosemary Green
2023/05/16
The future of meat and dairy consumption in the UK: exploring different policy scenarios to meet net zero targets and improve population health