論文概要
食糧システムは、人為による世界の温室効果ガス排出の1/3以上を占める原因であり、このうち半分は畜産動物に由来するものである。プラントベースの食生活に移行することで、森林破壊を大幅に削減し、生物多様性を保護し、持続可能な開発目標およびパリ協定の気候目標の達成に寄与できる。食肉消費において大規模な転換を実現するためには、政策における大胆な転換が必要となる可能性が高いが、需要サイドから食肉の消費を削減するうえでは、深く根付いた食習慣や肉を食べる喜び、その文化的な位置づけ、個人の自由など、多くの障害がある。
ここでは、社会規範や行動変容の契機となる事実情報に加え、代替肉における技術革新を効果的に組み合わせることで、食糧システムを変革するための前向きな政策フィードバックを促すことができるという仮説を立てた。これを検証するため、世界最大の食肉市場である中国と米国において市民2590名を対象に調査実験を実施し、得られたデータをさまざまな機械学習手法を用いて分析した。
その結果、新しいプラントベース代替肉を食べた経験がある人では、肉を減らして代替食品を増やす意思を持つ可能性が高く、プラントベース食への移行を推進する公共政策を支持する可能性も高いことがわかった。両国における結果からはまた、プラントベース食のメリットに関する事実や社会規範に関する情報を提供した場合、行動変容に向けた人々の意思は強くなり、食肉の削減に向けた政策への支持も高まることがわかった。全体としてはしかし、社会規範に関する情報が及ぼす効果は、事実に関する簡潔な情報による効果を上回るものではなかった。
米国では、情報発信によって食肉の削減に向けた政策への支持を訴える場合、新しい代替肉製品を食べたことがある人々ではより大きな効果が得られる可能性がある。前向きな政策フィードバックを生み出し、持続可能な食糧システムに向けて社会と技術の転換を進めるためには政策の順序付けを戦略的に考える必要があり、本研究の結果はこれに関して有望な知見を提供するものである。
Lukas Paul Fesenfeld, Maiken Maier, Nicoletta Brazzola, Niklas Stolz, Yixian Sun, Aya Kachi
2023/04/21
How information, social norms, and experience with novel meat substitutes can create positive political feedback and demand-side policy change