論文概要
食肉と乳製品の消費は、環境に対して膨大な影響を及ぼしている。畜産業による世界の温室効果ガス排出量の約80%は、牛肉・牛乳・豚肉の生産に由来するものである。食肉と乳製品の生産・消費を改めることは、パリ協定の気候変動目標(UNFCCC, 2015)を達成するうえで大きく寄与すると考えられている。また、大豆飼料を生産するために森林破壊が進んでいる国々からヨーロッパへの飼料輸入を減らすことができる。
しかし、多くの畜産システムは互いに密接に繋がっていることから、さまざまな食品を個別に代替した場合、間接的かつ意図しない影響を環境に対して及ぼす可能性がある。このため、消費量の変化が及ぼす影響に関しては、コンセクエンシャル・ライフサイクルアセスメント(LCA)*1 を用いて幅広く検証する必要がある。
本研究では、食生活において互いに異なるが関連のある2種類の選択 - 乳製品を豆乳に置き換えることと、牛肉ミートボールをエンドウ豆タンパク質のミートボールに置き換えること — が環境に及ぼす影響について、ドイツ国内の状況をもとに検証した。農場単位の経済モデルとコンセクエンシャル LCA を組み合わせることにより、農作物の輪作と土地利用の変化に関する詳細なデータを商品需要に関連付けた。
牛肉ミートボールをエンドウ豆由来のミートボールに置き換えた場合、100g あたり2.4 kg-CO2eの温室効果ガスを削減することが可能であり、さらに使用されなくなった土地で植林されれば 100g あたり 7.3 kg-CO2e までの削減が可能である。また、酸性化や富栄養化など、栄養分の流出に関連した環境問題も緩和される。
一方、牛肉の消費量を大幅に削減できない場合、豆乳によって牛乳を代替するだけでは、乳用牛・肉牛による生産体制に代わって、効率で劣る泌乳牛・肉牛による生産システムに置き換わってしまうため、温室効果ガスの大幅な削減にはつながらない。とはいえ、牛乳を代替することによって土地の利用は節約できるため、これを植林と組み合わせれば全体的な温室効果ガス排出量の低減につながる可能性はある。
本研究の結果から、気候中立climate neutrality *2 に向けた食生活の移行において豆類が重要な役割を担っていることが確かめられ、乳製品よりは食肉製品を代替することが特に重要となることを明らかになった。
*1 行動や意思決定が環境へ及ぼす潜在的な効果を評価するためのモデリング手法として近年広く用いられている *2 人・企業・団体などが、日常生活や製造工程などの活動により排出する温室効果ガスを、その吸収量やその他の削減量を差し引いて総排出量を算出し、実質ゼロにする取り組み(https://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=4707)
Marcela Porto Costa, Sophie Saget, Beate Zimmermann, Eckart Petig, Elisabeth Angenendt, Robert M. Rees, David Chadwick, James Gibbons, Shailesh Shrestha, Michael Williams, David Styles
2023/09/13
Environmental and land use consequences of replacing milk and beef with plant-based alternatives