論文概要
動物性食品を中心とした食生活は、私たちの健康や地球にとって負担が大きく、動物たちに苦しみを与えることが多い。この研究の目的は、よく知られている「身元の分かる被害者効果」- 匿名の被害者や統計値の被害者ではなく、個人として特定できる被害者を見せると、より大きな思いやりや支援の行動が喚起される現象 - を利用することで、肉を含めあらゆる食品を食べる雑食の人々(オムニボア omnivore)に、動物たちへの思いやりを喚起することである。この現象が、犠牲となる畜産動物にまで広がるのかどうかを検証した。オムニボアの人々では特に、犠牲の結果(動物の殺処分)に対してただ物質的な関心しか持たれないのかも知れない。この調査の結果から、食習慣によって消費者として食肉産業をサポートすることを通じてこうした人々はこのような犠牲を強いる行為に加担していると認識される可能性がある。
実験1では、逃げ出した子牛を屠殺から救うための嘆願書について、オムニボア参加者が署名しシェアする可能性を比べると、身元を特定されている1頭の子牛(名前と写真を提示)のほうが身元を特定されていない複数の子牛よりも高かった。実験2では、(実験1で見られた)嘆願を支持するという自己報告だけでなく、実際の嘆願書に署名する行為において検証し、実験1の知見をさらに拡張した。実験3では、この身元の特定可能性による効果を、逃げ出した子牛を屠殺から救うための現実の寄付行為においてさらに再現し、このような効果が単一の同定された被害者個体に限られていることを実証した。
さらに、身元の特定可能性によるこのような効果は、同情の感情(実験1)や食肉についての(罪悪感・恥を含む)両面的な感情(実験3)によって媒介されていること、その一方で、他者への関心や共感・動物との一体感がすでに強い場合や(実験2)、環境問題への意識がすでに高い場合(実験3)は目立たないことがわかった。オムニボア参加者で、他者への関心や環境についての意識のスコアが高く、共感性や動物との一体感のスコアは低い人々は、この効果による影響を受けやすかった。理論的および実践的な意義について考察する。
Rakefet Cohen Ben-Arye, Eliran Halali
2023/11/24
Giving farm animals a name and a face: Eliciting animal advocacy among omnivores using the identifiable victim effect