論文概要
動物に由来する製品を使った食生活は、人間の健康や環境、アニマルウェルフェアに及ぼす影響の大きさから、欧米諸国においては持続不可能なものと見なされるようになってきている。よりプラントベースの食生活への移行を促進することは、こうした悪影響を現実的に回避するうえで有効な方法であると思われる。しかし、動物性食品の消費に反対する主張は、カーニズム(肉食主義)として知られる、雑食の多数派のイデオロギーとは相容れないものである。カーニズムは、動物性食品を消費することは大切な社会的習慣であり、そこに悪い影響はなく、やむを得ないことであるとしてこれを支持し、ベジタリアンやヴィーガンなど、菜食主義の食生活を送る少数派の主張を無効化している。
この理論的レビューでは、社会心理学および実験的研究からの知見を統合し、菜食主義の主張へのこうしたイデオロギー的な抵抗には、アイデンティティに基づく動機が関わっていることを明らかにする。動物性食品の消費に反対する活動家は、動物性食品は有害であり、菜食に食生活を変えれば回避できると主張することが多い。これに対して雑食の人々が感じるのは、自らの道徳的アイデンティティと同時に動物性食品の消費者としてのアイデンティティが脅かされているということであり、そのために動物性食品の消費を合理化し、その悪影響を曖昧にしようとする動機が引き起こされる可能性がある。雑食の人々がこのような動機にもとづいて思考し、現実から敢えて目を逸らしているのだとすれば、このことは菜食主義を主張する人々に対する否定的なステレオタイプ化や社会的偏見を助長するかもしれない。
このようにカーニズムを支持し、菜食主義に反対する主張は、動物性食品を食べるためのさまざまな個人的・社会的な動機(肉へのこだわり、ジェンダー、種差別など)と結びつき、動物性食品の消費を続けることやそれに対する両面的感情(アンビバレンス)をさらに強めることになる。
このことはしかし、菜食主義者の主張にはまったく影響力がないということではない。つまり、表面的には抵抗と見える態度は、菜食主義者の主張を間接的・個人的にどこかで受け入れていることを隠しているのであって、後の時点ではしばしば菜食への行動変容へのコミットメントを呼び起こすことがある。ここで提示した理論的考察に基づいて、今後の研究の方向性について議論する。
Ben De Groeve, Brent Bleys, Liselot Hudders
2022/11/30
Ideological resistance to veg*n advocacy: An identity-based motivational account