論文概要
本稿で議論するのは、集約的な畜産が認可されている国々において、人獣共通感染症* のパンデミックによるリスクから公衆衛生を守るために、政府が集約的畜産を制限、あるいは廃止する措置をとることは -これは特に高所得国で重要であるが、同時にそれ以外の国々も含まれる- 原則として、道徳的には正当なものであるということである。
これまでの多くの議論においては、環境破壊やアニマルウェルフェア、あるいは動物由来食品の消費と非感染性疾患との関連などを取り上げながら、集約的畜産の制限や縮小、あるいは廃止が求められてきた。本稿の議論は、これらとは異なり、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を特に顕著な例として、今後の世界の公衆衛生に起こり得る緊急事態と、それが社会・経済・健康に及ぼす広範な影響から人々を守ることの重要性を訴えるものである。
本稿ではまず、なぜ集約的な畜産が人獣共通感染症の発生や、将来における発生リスクの原因となっているかを明らかにする。続いて、次の3つの具体的な政策オプションを検討する: 1. 動物由来食品に代替可能な植物由来および細胞由来の食品を政府補助金によって奨励する、2.「人獣共通感染症税」の導入によって集約的な動物由来食品の生産を抑制する、3.集約的畜産の全面的禁止によって動物性食品の生産を廃止する。我々の議論では、これらの3つの措置はすべて許容されるものであるが、政策上の責任であるかどうかは現時点では判断できない。
このような結論を主張するのは、公衆衛生のために広く受け入れられ、正当とされてきた介入策は他にも様々なものがあり、それと同様の事情を考慮すれば上記の措置はいずれも正当化されるからであり、さらにいずれの措置も正義についての様々な理論に適合しているからである。
次に、こうした議論に対して予想される異論について検討する。倫理に関するこれまでの議論には、動物由来食品の生産と消費を支持するもの、あるいはその削減を求めるものがあるが、我々の新しい議論がこれらとどのように関連しているかを最後に論じる。
* 同一の病原体により、ヒトとヒト以外の脊椎動物の双方が罹患する感染症
Justin Bernstein, Jan Dutkiewicz
2021/05/08
A Public Health Ethics Case for Mitigating Zoonotic Disease Risk in Food Production