クリスマスになるとテレビで放映される古い映画『ノアの箱舟』を知っていますか?旧約聖書の洪水物語を題材にした映画です。知らない方のために少しだけ説明をすると、堕落した人間に怒った神が、ノアという善良な人間とつがいの動物たちだけを箱舟にのせてから、大洪水をおこして世界を消滅させ、再生させるという物語です。この物語には大きな問題があります。神はノアという人間とたくさんの動物を助けたのに、洪水の後は人間がいっしょに助かった動物たちを利用するようになるという矛盾です。この問題には長く「動物は人間に利用されるために助けられた」という人間中心の答えしかありませんでした。しかし近年、その解釈が変化しているのです。洪水前後:人間と動物の関係性の変化ノアの箱舟の物語は、単なる宗教的な物語ではありません。それは人間と動物、そして自然との関係性について、時代を超えて私たちに問いかけ続ける、普遍的なメッセージを含んでいます。創世記によれば、神は人間を創造し、当初は植物を食物として与えました。「見よ。わたしは、全地の上にあって、種を持つすべての草と、種を持つ実を結ぶすべての木をあなたがたに与える。それがあなたがたの食物となる。」(創世記 1:29)これは人間と動物が共存し、調和して生きることを神が意図していたと解釈できます。動物は食べ物ではなく、文字通り、共に生きる仲間だったのです。しかし、洪水の後、状況は一変します。「生きて動いているものはすべて、あなたがたの食物となる。わたしは、緑の草をあなたがたに与えたように、すべてをあなたがたに与える。」(創世記 9:3)この記述は従来、神が人間に肉食を許可したと解釈されてきました。しかし、近年では、この解釈は変化しつつあります。1960年代以降、動物の権利や福祉に対する意識が高まり、アニマルライツやアニマルウェルフェアの考え方が広まりました。この影響もあり、上記の記述は、単なる肉食の許可ではなく、神が動物を扱う責任を人間に与えたものだと解釈されるようになっています。現代社会への警鐘:ノアの箱舟が問いかけるもの現代の私たちは、気候変動や環境問題など、地球規模の危機に直面しています。こうした状況は、キリスト教文化圏ならずとも、ノアの箱舟の物語を彷彿とさせ、私たちに警鐘を鳴らしていると言えるでしょう。現代社会では、食の選択肢は豊富になり、科学技術も進歩しました。しかし、その一方で、工場畜産では動物たちが劣悪な環境で飼育され、苦しんでいます。生きるために好きなだけ動物を利用できる時代は終わったのに、現状は看過できない状態です。動物を扱う責任を負った人間として、今なにをすべきか、この古いクリスマスストーリーが教えてくれるのです。ノアの箱舟の物語は、私たちに次のような問いを投げかけています。私たちは、動物をどのように扱うべきなのか?食の選択は、動物や環境にどのような影響を与えるのか?人間中心主義的な考え方を改め、どのように自然と調和していくべきなのか?これらの問いは、アニマルライツを根底に置きながら、アニマルウェルフェアを進めていく行動の指針となるものです。わたしたちに課せられた責任をどう果たしていくか、それをみんなで考える日がクリスマスなのです。プラントベースの食生活への転換や、動物福祉の向上など、私たちにはできることがたくさんあるのだから、クリスマスを機会にさらに一歩、大きく運動を進めることはできるはずです。参考文献『動物という隣人 共感と宗教から考える動物倫理』鬼頭葉子 新教出版社 2023年『聖書とエコロジー 創られたものすべての共同体を再発見する』リチャード・ボウカム いのちのことば社 2022年動物を利用しないクリスマスの過ごし方はこちら【特集】ハチドリィ編集部厳選!クリスマス特集~2024~クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Articleアニマルライツチャンネルvol59[2024年動物たちに起きたこと] No Newer Articles 2024/12/07