動物検疫所とは輸出入される動物や畜産物などには動物検疫というものが行われる。その目的は家畜伝染性疾病の国内への侵入防止、伝染性疾病を広げるおそれのない動物 ・畜産物の輸出というものだ。動物検疫所は農林水産省設置法の第11条により全国に配置されており、以下の法律とリンクしている。家畜伝染病予防法(第4章 輸出入検疫)検疫対象:偶蹄類の動物 、馬 、家きんとその卵 、うさぎ、蜜蜂 、犬 、これらの骨、肉、皮、毛等 、ソーセージ、ハム、ベーコン 、穀物のわら及び飼料用の乾草検疫対象疾病:監視伝染病に限定 家畜伝染病(28種) 届出伝染病(71種)狂犬病予防法検疫対象:犬 、猫 、あらいぐま 、きつね 、スカンク検疫対象疾病:狂犬病(1958年以降日本での発生なし)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律検疫対象:サル疫対象疾病:エボラ出血熱、マールブルグ病輸入禁止動物(感染症を人に感染させるおそれが高い動物):イタチアナグマ、コウモリ、サル、タヌキ、ハクビシン、プレーリードッグ、ヤワゲネズミ水産資源保護法検疫対象:・魚類(さけ科魚類、こい、ふな属魚類(きんぎ等)、 こくれん、はくれん等)・甲殻類(くるまえび科えび類、 さくらえび科あきあみ属えび類、 てながえび科えび類) ・貝類等(とこぶし、えぞあわび、まがき属かき類、 ほたてがい、まぼや等)検疫対象疾病:24疾病 (コイ春ウイルス血症、コイヘルペスウイルス病、ウイルス性出血性敗血症、イエローヘッド病 等)家畜はどこの空海港でも取り扱えるわけではなく、日本には家畜指定の海港8か所と空港が11か所ある。そして日本に到着後運び込まれる動物検疫所は全国に約30か所あり、その中に牛や豚を扱う家畜係留施設を有する施設が8か所ほどある。鶏(餌付け後のひな)の場合は現在、家畜衛生条件が締結されている国がないため輸入されておらず、初生ひな(餌付け前のひな)のみが輸入されており、対応できるのは16施設となっている。※初生ひなは鶏のひなだけではなく、一部その他のひなも含む著者:能計314 CC 表示-継承 4.0https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gate(3),Animal_Quarantine_Service_(yokohama).jpg輸入検査の流れ(牛・豚)出国検疫(外国)と農水省消費・安全局動物衛生課の間で輸入条件が成立することで合意され、動物が輸出入される。当然、重要な悪性家畜伝染病(高病原性鳥インフルエンザ、豚熱、アフリカ豚熱、口蹄疫)発生地域からは輸入禁止となる。まずは到着港で輸送状況等の聞き取り確認が行われ、機内への立入りで個体検査をし、その後輸送車へ乗せ、係留施設に収容する。そこで原則全頭(疾病によっては一部抽出検査もあり)に臨床検査、採血・採材、皮内反応検査などが行われるが、これの結果が出るまでには日数を要する。この係留期間は畜種によって様々であり、牛や豚では輸入だと15日、輸出だと7日、治療が必要な場合は係留延長となる。その間は頭数や大きさに応じて動物たちは畜房の中で過ごしている。そして判定が決まり、合格の場合は解放され都道府県(家畜保健衛生所)の管轄下で3か月の着地検査に進む。不合格の場合は元の国に返送されるか、もしくは殺処分となる。輸入検査の流れ(初生ひな)初生ひなは到着港にある動物検疫所で到着時検査を受け、その後は牛や豚の係留所とは違う指定された検査場所へ運ばれる。検査の流れは牛や豚と同じであるが、羽数が多いため全羽に検査は行われず、ロットごとに規定のサンプル数を採取する。係留期間は輸入で14日、輸出で2日、同じく投薬など治療が必要な場合は係留延長となる。その間は平飼いの状態で過ごしている。入検数と解放数まずは2018年から2020年の輸入実績を見るとどの程度の規模で輸入されてきたのかが見える。初生ひなは幅が広く約30万~約50万羽、豚もばらつきがあり約500頭~2500頭、牛は比較的一定に1万5000頭前後。※初生ひなは主に採卵・肉用の原種鶏や種鶏になるひなのこと初生ひな2018年:522034羽2019年:473155羽2020年:340127羽豚2018年:526頭2019年:497頭2020年:2521頭牛2018年:14472頭2019年:17749頭2020年:14917頭ちなみにどんな国から輸入されているのか、2020年だと初生ひなは英国129836羽、オランダ87431羽、フランス66974羽、アメリカ43621羽、カナダ9464羽。豚はデンマーク1941頭、英国262頭、カナダ259頭、その他59頭。牛は全てオーストラリアからで肥育用14263頭、乳用繁殖用654頭という具合。このような畜産動物が検疫所で検査されるわけだが、そこにはいろいろな結末がある。摘発疾病を疑われたが係留延長後の再検査で陰性であった場合や、陽性であったが係留延長を行い回復するという場合もある。また疾病摘発後に他の疾病により死亡することも。そして回復しなかった場合の返送もしくは殺処分。先述の輸入実績の数字というのは、検査を受け最終的に合格した頭羽数(解放数)であり、実際に輸入された数(入検数)とは異なる。この入検数と解放数の誤差が、返送、死亡、もしくは殺処分数を意味する。それでは2018年から2020年の輸入実績にはどのくらいの誤差があったのか、動物検疫年報からそれを知ることができる。()がないものは入検数と解放数が同じで全てが合格に、()内の数字は入検数と解放数に誤差(非解放)があった場合の入検数が記されている。2018年https://www.maff.go.jp/aqs/tokei/attach/pdf/toukeinen-26.pdf鶏【ヨーロッパ】イギリス鶏初生ひな:249238(258565)その他初生ひな:4513(4537)計:253751(263102)ハンガリー鶏初生ひな:12335(12472)フランス鶏初生ひな:24116(24552)その他初生ひな:3170(3185)計:27286(27737)ヨーロッパ初生ひな小計鶏初生ひな:285689(295589)その他初生ひな:7683(7722)小計:293372(303311)【北米】アメリカ鶏初生ひな:171041(180286)カナダ鶏初生ひな:42135(44486)北米小計:213176(224772)【大洋州】ニュージーランド鶏初生ひな大洋州小計:15486(16171)【トータル】鶏初生ひな:514351(536532)その他初生ひな:7683(7722)2018年初生ひな総合計:522034(544254)非解放数:22220羽豚【ヨーロッパ】イギリスその他豚:10デンマーク繁殖用豚:125ドイツ繁殖用豚:6フランス繁殖用豚:50ヨーロッパ小計:191【北米】アメリカ繁殖用豚:184(186)カナダ繁殖用豚:151(152)北米小計:335(338)【トータル】繁殖用豚:516(519)その他豚:102018年豚総合計:526(529)非解放数:3頭牛【大洋州】オーストラリア乳用繁殖用:1716(1739)肥育用牛:12756(12768)2018年牛総合計:14472(14507)非解放数:35頭2019年https://www.maff.go.jp/aqs/tokei/attach/pdf/toukeinen-34.pdf鶏【ヨーロッパ】イギリス鶏初生ひな:234394(243182)その他初生ひな:6164(6234)計:240558(249416)オランダ鶏初生ひな:53685(54479)フランス鶏初生ひな:26110(27034)ヨーロッパ初生ひな小計鶏初生ひな:314189(324695)その他初生ひな:6164(6234)ヨーロッパ小計:320353(330929)【北米】アメリカ鶏初生ひな:105378(111225)カナダ鶏初生ひな:31902(32656)北米小計:137280(143881)【大洋州】ニュージーランド鶏初生ひな大洋州小計:15522(16119)【トータル】鶏初生ひな:466991(484695)その他初生ひな:6164(6234)2019年初生ひな総合計:473155(490929)非解放数:17774羽豚【ヨーロッパ】デンマーク繁殖用豚:64(65)フランス繁殖用豚:50ヨーロッパ小計:114(115)【北米】アメリカ繁殖用豚:166カナダ繁殖用豚:217北米小計:3832019年豚総合計:497(498)非解放数:1頭牛【大洋州】オーストラリア乳用繁殖用:3224(3230)肉用繁殖用:2肥育用牛:14523(14541)2019年牛総合計:17749(17773)非解放数:24頭2020年https://www.maff.go.jp/aqs/tokei/attach/pdf/toukeinen-37.pdf鶏【ヨーロッパ】イギリス鶏初生ひな:129836(134835)その他初生ひな:2801(2833)計:132637(137668)オランダ鶏初生ひな:87431(89818)フランス鶏初生ひな:66974(69192)ヨーロッパ初生ひな小計鶏初生ひな:284241(293845)その他初生ひな:2801(2833)ヨーロッパ小計:287042(296678)【北米】アメリカ鶏初生ひな:43621(46122)カナダ鶏初生ひな:9464(9835)北米小計:53085(55957)【トータル】鶏初生ひな:337326(349802)その他初生ひな:2801(2833)2020年初生ひな総合計:340127(352635)非解放数:12508羽豚【ヨーロッパ】イギリスその他豚:9デンマーク繁殖用豚:1941(1946)フランス繁殖用豚:50繁殖用豚:1991(1996)その他豚:9ヨーロッパ小計:2000(2005)【北米】アメリカ繁殖用豚:262(263)カナダ繁殖用豚:259北米小計:521(522)【トータル】繁殖用豚:2512(2518)その他豚:92020年豚総合計:2521(2527)非解放:6頭牛【大洋州】オーストラリア乳用繁殖用:664(667)肥育用牛:14253(14273)2020年牛総合計:14917(14940)非解放数:23頭動物検疫所に限ったことではないが、鶏の数字が桁違いであることにここでも衝撃を受ける。そして残念なことにデータとしてわかるものは監視伝染病由来のものしかなく、その他の原因であった場合は返送が行われたのか殺処分されたのか、もしくは死亡したのかもわからない。以下が *2018年から2020年の家畜伝染病・届出伝染病による殺処分数と死亡数 となっている。*動物検疫所への問い合わせにより確認したデータ2018年監視伝染病と措置状況輸入輸入輸入輸入輸入牛牛 牛牛豚ヨーネ病ヨーネ病 アナプラズマ病牛丘疹性口炎 豚繁殖・呼吸障害症候群 乳用繁殖用肥育用 肥育用乳用繁殖用 繁殖用オーストラリア オーストラリア オーストラリアオーストラリア カナダ3頭1頭1頭1頭1頭家畜伝染病家畜伝染病家畜伝染病届出伝染病届出伝染病殺処分 3頭殺処分 1頭殺処分 1頭回復 1頭殺処分 1頭2018年 家畜伝染病・届出伝染病による殺処分数牛:5頭、豚:1頭2019年監視伝染病と措置状況輸入輸入牛牛ヨーネ病ヨーネ病乳用繁殖用肥育用オーストラリアオーストラリア2頭1頭家畜伝染病家畜伝染病殺処分 2頭殺処分 1頭2019年 家畜伝染病による殺処分数牛:3頭2020年監視伝染病と措置状況輸入輸入輸入牛牛牛アナプラズマ病牛ウイルス性下痢牛ウイルス性下痢肥育用乳用繁殖用肥育用オーストラリアオーストラリアオーストラリア1頭1頭14頭家畜伝染病届出伝染病届出伝染病殺処分 1頭殺処分 1頭死亡 8頭 回復 6頭2020年 家畜伝染病・届出伝染病による殺処分数牛:2頭(死亡:8頭)※2018年から2020年の間の返送措置はなしアニマルウェルフェアの観点から思うのは、国は上記数字と非解放数の誤差分に関してもどのような原因でどのくらいの頭羽数が返送されたのか、死亡したのか、殺処分となったのかについて透明性を持たせなくてはならない。監視伝染病ではないが解放されなかった動物がどうなったのかすら「謎」などということに疑問を感じるのは筆者だけでなないはずだ。初生ひなに関しては原因が監視伝染病ではないため、非解放数の全羽がデータに載っておらず呆然とする。ちなみに動物検疫速報では、初生ひなのみ入検数と解放数の表がありその数を見ることができる。2023年11月時点の初生ひな非解放数は6837羽、2022年の初生ひな非解放数は7509羽、2021年初生ひな非解放数は23189羽という具合になっており、速報値なので若干の誤差はあるのかもしれないがどのくらいの規模で非解放が出ているのかを知ることは可能となっている。動物検疫所での殺処分方法とは日本から海外に畜産物を輸出する場合はその相手国の基準に合わせたと畜方法で行わなければならないが、では生体を相手国から輸入して検疫で殺処分に至った場合、その殺処分方法は相手国の法律などに沿う必要はないのだろうか。少なくとも英国やEU加盟国には殺処分時の法律(2009年のEU規制 殺処分時の動物福祉規定理事会規則 EC No 1099/2009)があり、これはと畜以外にも疾病管理での殺処分も対象とされている。殺処分時の動物福祉規定理事会規則 EC No 1099/2009第 3 条動物が「殺害および関連作業中に避けられない痛み、苦痛、苦しみ」を免れなければならない第 5 条労働者は動物が終了までの期間に意識の兆候を示さないかどうかを確認する必要がある第 4 条(1)動物を屠殺する前に気絶させ、意識と感覚の喪失を動物が死ぬまで維持することを要求結論から言うと、牛、豚の殺処分方法ではアニマルウェルフェア上の問題性は低い。輸出入国間での取り決めがあるわけではないが、動物検疫所では鎮静剤、麻酔薬、筋弛緩薬の順に薬剤を投与し殺処分を行っている。自発的に鎮静剤と麻酔薬を用いるあたり、国際的な場面という性質が意識を高めているのかもしれない。一方で初生ひなの殺処分方法は二酸化炭素ガスで行われているのだが、使用機材や手順等は施設により異なるようで、鳥インフルエンザの殺処分のようにポリバケツへ感覚的にガスを注入しているのか、ビニール袋によるやり方なのか、ガス濃度測定器の付いた専用の機械があるのか、単層式(一気に高濃度で暴露)なのか二段階式(低濃度から高濃度への切り替え)なのか、また初生ひなの収容密度など、具体的にどのような内容なのか現時点では不明である。畜産動物と聞くと農場や牧場、養鶏場、と畜場や食鳥処理場などの場面を思い浮かべるが、このようにそれ以外の場所でも動物たちは日々利用されている。動物利用が行われている所にアニマルウェルフェアはあって然るべきであり、そしてその質にも私たちは注目していかなければならない。アニマルウェルフェアを向上させていくのは人々の意識なのだから。脚注https://www.maff.go.jp/aqs/sosiki/pdf/shiteiko.pdfhttps://www.jlta.or.jp/news/image/seminar2021/jltaseminar2021.pdfhttps://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/pdf/q2-animal.pdfhttps://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=411AC0000000098_20230401_504AC0000000036https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC1000000166_20220617_504AC0000000068https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000247https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=410AC0000000114https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC1000000313https://www.maff.go.jp/aqs/hou/pdf/hina_im.pdfhttps://www.maff.go.jp/aqs/tokei/pdf/25dobutu-tekihatu.pdfhttps://www.maff.go.jp/aqs/tokei/toukeisokuho.htmlhttps://www.nikkei.com/article/DGXLASDG19H50_X10C16A5CR0000/https://www.maff.go.jp/j/syouan/suisan/suisan_yobo/attach/pdf/index-3.pdfhttps://www.maff.go.jp/aqs/hou/57.html#:~:text=%E6%B3%95%E7%AC%AC54%E6%9D%A1%E3%81%AB,%E3%81%8C%E7%A6%81%E6%AD%A2%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82クリックして 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