※2005年時点での記事です動物実験の問題に取り組んでいる人は、いろいろな壁にぶち当たりどうしてよいか分からなくなることがあります。何かをしたいという気持ちだけをもち、時間が流れます。 例えば毒性試験に反対したとしても、それでは、安全試験はどうするのだと反論されてしまいます。 この記事は、動物実験代替法が難しいとされる慢性毒性試験に対して、どのように取り組めばよいかについて記したものです。慢性毒性試験をどう考えるか?慢性毒性試験とは、28日間~1年間と長期間にわたり、動物に試験物質を投与して、その様子を観察するテストで最も動物が苦しむと考えられます。 現状をカテゴリーに分けて考えてみたいと思います。 「化粧品」「食品添加物」「医薬品」「化学品」・ 化粧品に関しては、動物実験を義務付ける法律が改正されたことで、行われる毒性試験の数は減っています。ちなみに新規の申請も年間数件まで落ちてきています。・ 食品添加物(口に入るという意味では残留農薬、残留動物用医薬品もある)に関しては 年間50件以上の新規申請があり、いまだに多くの動物が毒性試験の犠牲になっています。健康ブームに乗って、新しい食品が出てくるので、動物実験を止めることは容易ではありません。・ 医薬品の新規申請数は、年間40件ほどになっています。 それほど多くないように考えられるのですが、製薬会社の開発段階でも行われるので 犠牲となる実数はずっと多いはずです。・ 一般化学品に対しては深刻です。現在、流通している化学品の数は10万品目とも言れています。現在流通している中で量が多い高生産化学物質および新しく生まれた新規化学物質に対して、毒性試験が行われています。それぞれに対して、我々はどう取り組めばよいのでしょうか?・ 化粧品に関しては、動物実験が必要ないことを消費者が理解しており、市民活動を継続してゆけば、毒性試験の必要な新規化粧品成分の開発は減っていき、いずれはなくなると期待できます。・ 食品添加物と医薬品に対しては、どちらも対策が非常に難しい分野です。ただ、ひとつ気づく点としては、新規に申請された食品添加物、医薬品が、ともに それほど画期的なものではないことです。例えば、従来薬に比べて、ほとんど効能が変わらない新薬が多く出てきています。効能は変わらないのに、薬価だけは高く設定されるので消費者にもマイナスです。この部分に切り込んでゆくことが、ひとつのポイントになると思います。つまり、画期的な新薬、画期的な食品添加物でない限り、新たな申請を認めないという スタンスで活動をしてゆくことで動物の犠牲を減らしてゆけるのです。化学品における取り組みまず、OECD(経済協力開発機構)が主導するHPVプログラムについて述べます。 生産量の多い2800の物質については、世界の国が分担して毒性テストを実施することが決まっていて、動物の犠牲数は1000万匹に達すると懸念されています。動物保護団体の力では、このプログラムを止めることはできず、できたのは毒性試験方法を工夫することで犠牲の数を減らすことだけでした。(1試験につき440匹犠牲になるところを118匹まで減じた。もちろんこれも重要なことです。)実際の試験は始まっていて、日本も以下の研究所で慢性毒性試験を実施し、結果を公表しています。(http://wwwdb.mhlw.go.jp/ginc/html/db1-j.html) 三菱化学安全科学研究所(鹿島) 32物質 (財)食品薬品安全センター(秦野) 42物質 (財)食品農医薬品安全性評価センター(磐田) 34物質 ㈱バナファームラボラトリーズ(熊本) 15物質 ㈱ボゾリサーチセンター(御殿場) 14物質 (財)畜産生物科学安全研究所(相模) 24物質 ㈱日本バイオリサーチセンター(羽島) 20物質 ㈱化合物安全研究所(札幌) 23物質1物質に対して使われるラットは40匹以上です。これらの試験所の所員の方は、苦しんでいる動物の様子をつぶさに記録に取らなければならないわけで、強い心の痛みを受けるに違いありません。 動物実験というものは、単に動物だけの問題ではないことも知らなければなりません。HPVプログラムとは別に、新規に合成された化学物質は、日本独自の法律としては、「化学物質審査規制法」(以下、化審法)の中で、その毒性試験が行われます。PCBのような危険な化学物質が、河川に流れ、魚に蓄積し、それを人間が食べると危険であるので、新しく合成された化学物質は、事前にその安全性をチェックしておこうというのが、この法律の趣旨です。企業が、新規化学物質を市場に投入する際には、「化審法」により慢性毒性試験(28日間反復投与)が行われます。以前は、生産が1t/年以上のすべての新規化学物質に対して毒性試験が行われ、年間350物質も申請があったわけです。 私は、この区切りが生産量10t/年以上になることを願っていたのですが、実は去年、化審法の改正がなされ、高蓄積性(例えば魚の体の中で蓄積する)でなければ、低生産量(生産が10t/年以下)の新規化学物質は慢性毒性テストをしなくてもよいことに改正されていました。効果は抜群です。問い合わせてみると、申請数は1/10ほどになり、今年8月の時点でまだ、10件しか申請がないそうです。この改正により、多くの動物が助かったことになります。 法律を改正することが、いかに大きな効果をもたらすかを目の当たりにした思いです。今後どうすべきなのか前記したように、すでに化審法での毒性試験は大幅に減っていますので、十分になくせる段階に来ていると思うのです。 化審法での慢性毒性試験を、すべて代替法へと変えていくことを望みます。冒頭で、慢性毒性試験は代替法が難しいと書きましたが、ある程度毒性を予測できる試験法としては以下のものがあります。 SAR(構造-活性-相関)プログラム 化学物質の構造を特定することで、その毒性を予測する計算ソフトです。すでに 毒性が分かっている物質のデータを元に、新規化学物質の毒性を予測します。 DNAマイクロアレイ解析 毒性の強い化学物質の暴露を受けると、発現する遺伝子になんらかの変化が出ます。 この原理を利用して、新規化学物質の毒性を予測します。 化審法での慢性毒性試験の結果は、第2種監視物質を区分するためだけのものであり、第2種監視物質は、生産量の報告義務だけで生産量の規制があるわけでもありません。そして、生産量が増えてくれば、結局、上記したHPVプログラム等により、再度、安全性評価を行われるわけですので、第一段階は、ラフに上記代替法で評価したとして問題ないと考えられます。 さらに、企業側も歓迎するはずです。慢性毒性試験を依頼すれば、700万円以上のコストがかかるといわれているからです。1. 化審法での毒性試験の撤廃2. 慢性毒性試験の代替法開発への補助金の増額の2点を求めてゆきたいと考えています。 ぜひ皆様からも、要望をお願いします。私たちの要望直接、口に入らない化学品に対して慢性毒性テストを行うのは、環境に排泄され、魚などに蓄積した場合の危険性を把握するためと言われています。 そして、新規化学品は「化審法」に従い、申請の際に28日間反復毒性テスト(慢性毒性に対するスクリーニングテスト)の試験結果が要求されています。しかし以下の理由で、このテストを行う必要はないと考えられます。 1.実際に環境に蓄積して危険の高い高生産量(年産450t)の化学物質は、世界的にHPVプログラムとして、すでに慢性毒性試験が進行していて化審法と重なってしまう。2.化審法での反復毒性テストの値は、第2種監視物質を区分するためだけに使用しているにすぎない。また、第2種監視物質は、生産量を報告すればよいだけで、生産量の規制があるわけでもない。生産量が増えてくれば、結局、上記したHPVプログラムにかぶるわけである。結局、現在、行われている慢性毒性テストの結果は活用されているとはいえず、慢性毒性のデータベースを企業の資金で増やしているだけにすぎない3. すでに慢性毒性テストのデータ蓄積は1000物質を超えており、このデータを活用すれば化学構造相関ソフトによる計算で、新規化学物質の毒性をある程度予測できる。 また、NEDOで開発中の代替法試験も用いることができる。要望:上記論理でゆけば、高生産量以外の新規化学物質の申請時は、代替法により毒性を予測し、第2種監視物質の区分を行えばよいことになりますので、現在要求している28日間反復毒性テストによるスクリーニング毒性試験を中止してください。また、同時に代替法の精度を 高めてゆくために、NEDO等で行われている慢性毒性試験代替法の開発への補助金を増額してください。クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Article犬にはかならず迷子札・鑑札・注射票を! Next Article単回投与毒性試験 とは? 2005/02/13