アイス市場からわかる購買心理2023年度、日本のアイスクリーム市場は約6,000億円規模に達し、その中でも明治・赤城乳業・ハーゲンダッツ ジャパンの3社はとくに高い売上を示しました。明治の「エッセル スーパーカップ」は373億円、赤城乳業の「ガリガリ君」は570億円、ハーゲンダッツは517億円と、いずれも消費者に根強い支持を得ています。価格帯を見ると、「エッセル」が160円前後の一般価格、「ガリガリ君」は80円という安価、「ハーゲンダッツ」は351円と高価格帯です。ここで注目すべきは、赤城乳業の売上がハーゲンダッツを上回っている点です。価格差が約4倍あることから、仮に両社の商品ファンが同数であったなら、ガリガリ君ファンはハーゲンダッツファンよりも4倍多くアイスを購入・消費していることになります。これは、「安いから気軽に頻繁に買える」という購買心理がある一方で、「高くても価値を感じれば買う」という消費者層も共存していることを示しています。前者は価格に敏感なプライス・センシティブ層、後者は品質や社会的価値に重きを置くバリュー・コンシャス層と呼ばれ、このような購買行動の違いを理解し、消費者をタイプ別に捉える考え方をマーケティングでは「セグメンテーション」といいます。さらに、それぞれの層に適した商品設計や価格設定、プロモーションを行う手法は「ポジショニング戦略」と呼ばれます。ハーゲンダッツは「ご褒美」「高級感」「こだわりの素材」を訴求することで高価格帯でも顧客に選ばれ、一方の赤城乳業は「安くておいしい」「ついつい毎回買ってしまう」手軽さで高頻度購入を促しています。どちらも正しい戦略で成功しています。アニマルウェルフェア食品に応用この消費者心理は、たとえば平飼い卵といったアニマルウェルフェア食品にもそのまま当てはまります。一般的なケージ飼い卵より平飼い卵は価格が高くなるのが一般的ですが、アニマルウェルフェアや環境配慮、健康面でのメリットを重視する層は、その価格に納得して購入を継続しています。これはまさに、ハーゲンダッツを選ぶ層と同様、「価格以上の価値を見出している」消費行動です。たとえば、ある人にとってハーゲンダッツは「特別な日に買う自分へのご褒美」であるように、平飼い卵も「動物に優しいものを選ぶ自分でありたい」という倫理的消費の延長線上に位置づけられます。一方で、ガリガリ君のように「コンビニに寄ったついでに買ってしまう」という行動があるように、ケージ卵も「特売ならついでに多めに買ってしまう」という側面があります。「平飼い卵は売れない」は本当か?よく企業はケージフリーに取り組まない言い訳として「平飼い卵に変えたら、価格が高くなり、商品が売れなくなる」と言います。たしかに一部にはそういった商品もありますが、日本の消費市場では、価格の高さが障壁にならない層と価格の安さによって購入頻度が上がる層が共存しており、そのどちらも無視してはいけません。卵だけを見ていては消費行動の構造は見えてきませんが、アイスクリームやコーヒー、菓子類など他の商品の売れ方と比較すると、マーケティング戦略の可能性がはっきりと見えてきます。平飼い卵の普及には、ハーゲンダッツのように「価値訴求型」のマーケティングと、赤城乳業のように「価格と頻度のバランスをとった提供」の両面から戦略を立てることが有効なのです。アニマルウェルフェアを広げるにはアニマルウェルフェアに配慮した商品は、「高くても選びたい」という人々に対しては明確な価値を伝え、「手に取りやすい価格」で提供することで日常化を狙うアプローチも取れます。企業は、どうせ売れないという固定観念ではなく、市場を構造的に見つめ直し、「どの層に、どんな理由で届くのか」を丁寧に考えるマーケティング視点を持つことで、より健全で持続可能な商品開発が可能になります。今企業に足らないのは、この点の企業努力であることがはっきりとしています。さらに最近の日本市場では「安い商品はますます安く、大衆向けに」「高い商品はますます高く、価値志向の層に」という“消費の二極化”が進行しています。この現象は「K字消費」とも呼ばれ、中価格帯がむしろ苦戦しやすいというのが特徴です。昔からあるオーソドックスなアイスクリーム「明治スーパーカップ」より、ガリガリ君やハーゲンダッツが売れるのが、まさに「K字消費」現象を示しています。アイスクリーム同様、卵のような日常食品でも、安価なケージ卵と高価格な平飼い卵(加工商品)の“すみ分け”が、成立し得ると考えられる理由はこの理論からです。つまり、価格だけで判断するのではなく、「選ばれる理由」を可視化し、社会的な価値が購買動機になるような商品設計・広報・流通をセットで考えていくことこそが、企業と消費者、そして動物たちにとって、未来ある選択になるのです。企業にはこういったマーケティングの専門家がいるはずなのですが、その方々の活躍が見えてこないのは、アニマルウェルフェアがいまだ、全社を挙げての取り組みに成長していないからだとおもわれます。 クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます) X Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます) Facebook クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます) X Share This Previous Articleアニマルライツヴィレッジ:アニマルウェルフェア基準 No Newer Articles 2025/07/23