新型コロナウィルスによる公演自粛で収入が減った木下大サーカスは、2020年7月15日に目標額3000万円のファンドレイジングを開始。8月11日時点で2000万円以上の支援額が集まっている。いくつかのメディアは、この木下大サーカスのファンドレイジングを取り上げ、「木下大サーカスが誓う再起」「一人もクビにせず「奇跡の復活」」などの見出しで美談のように取り上げているが、倫理的な問題への言及はない。すなわち、木下大サーカスにおける動物利用の問題についてだ。サーカスという娯楽での動物利用について、年々非難の声は高まっており、禁止・制限する地域は拡がっている。現時点で56の国が、サーカスでの動物利用を禁止・制限している状況だ。だが今のところ日本では動物サーカスはまだ合法だ。国内でも非難の声は拡がっているとはいえ、動物の娯楽利用の問題に気が付かない人も少なくない。動物サーカス側に問題提起すると、動物を「家族のように思っている」と答える。彼らの気持ちに嘘があるとは言わない。だが家族のように思っているというならばなぜ、といういくつもの疑問が沸き上がる。・狭いコンテナに閉じ込めて長時間に及ぶ輸送。木下大サーカスは毎年各地を移動し、そのたびに動物は長時間の拘束を強いられる。(2016年まで木下大サーカスで使用されていたキリンは首を曲げてお座りのような姿勢を強いられた。当時のキリン、マサイはすでに死亡)・さらに公演中の収容スペースも狭い。そもそも一時的に設営される移動サーカスに十分なスペースはない。ゾウの場合なら自然界では1日の16~20時間を探索しながら広範囲を採食して活動するがそのような環境とはかけ離れている。ライオンのような動物は常時檻の中。 *収容施設の詳細は、PEACE~命の搾取ではなく尊厳を で調査されているのでご覧いただきたい。・芸の強要ライオンに、台から台へと輪を飛びくぐらせるというような事故にもつながる芸を強いる。(2017年に木下大サーカスを視察した際、明らかにその芸をためらって動けないでいるライオンに、調教師が脅して芸を強要していた)。 ゾウには逆立ちや、後ろ足のみでの二足歩行を強いる。巨大な体重を抱えるゾウにとって、二本足で体を支えることは大きな負担となる。サーカスが強要する逆立ち、後ろ足立ち、ひざまずき、これらは関節や脊椎の損傷や爪の裂けにつながり、バランスをとる行為は、肘と膝に問題を引き起こす可能性がある。 Comments to elephants performing in circuses Dr Marion Garaï *自然界ではオスのゾウが交尾をするときや、ある地域のゾウは高い木から果物を摘み取るときに後ろ足のみで立つことがあるが、これは地面に食べ物がなく必要に駆られてする行為にすぎない。・なぜ家族に対して、ブルフックやムチのような脅しの器具を持つ必要があるのだろうか? 2017年/木下サーカスのバックヤード 先のとがったブルフックは、ゾウを脅すために用いられる・近親交配でも、集客のためであれば購入。木下大サーカスの呼び物「奇跡のホワイトライオンショー」。このホワイトライオンたちは、イギリスのウェストミッドランドサファリパーク(WMSP)で産まれ、2010年に木下サーカスが購入して連れて来られたものだ。2004年に4頭のホワイトライオンを購入したWMSPは2006年から2009年にかけて、かれらを繁殖させ22頭の子を産ませた(商業的価値のある「白いライオン」を増やしたいという意図があったものと思われる)。 だが専門家は白いライオンの交配に警鐘を鳴らす。すべてのホワイトライオンは、単一の小さな集団に由来しており、白い毛は劣性遺伝子によって引き起こされるからだ。つまりホワイトライオンは近交系であり、この繁殖には近交弱勢(遺伝的欠陥、生殖能力の低下、身体的欠陥)を引き起こす可能性があるという。専門家は「ホワイトライオンは意図的な近交系であるため、動物園はこれをコレクションに含めるべきではありません。」と言う。 Tuesday 27th November 2012 West Midland Safari Park and the Japanese Kinoshita Circus – strange bedfellows? EXPOSED: UK ZOO IS SOURCE OF INBRED LIONS USED IN JAPANESE CIRCUS Fury as rare white lion cubs born in UK safari park are sent to a Japanese circus・引退したあともひどい扱い。2010年にイギリスから連れてこられたホワイトライオンのうちの一頭、ハタリは他のライオンに襲われたあとで2011年に動物園に移された。ハタリは「自律神経失調症と呼ばれる神経疾患」を発症し、たてがみが完全に脱落していたという。 EXPOSED: UK ZOO IS SOURCE OF INBRED LIONS USED IN JAPANESE CIRCUS https://www.youtube.com/watch?v=KLcBhmSkLCo 2011.8.23「ホワイトライオン 池田動物園 ハタリ」などと検索すると、動物園に移動されたハタリが酷い環境で飼育されていたことが分かる。 2011年12月9日 2017年1月2日ハタリは2018年9月16日に死亡。毎日新聞は「死因は、胃に穴が開いたことによる腹膜炎とみられる。ホワイトライオンの寿命は20~25年程度で、早過ぎる死となった。」と報じている。 「園の「顔」、大地(エゾヒグマ)とハタリ(ホワイトライオン) 今月、相次ぎ死ぬ」毎日新聞 サーカスのために日本に連れてこられ、逃げることの出来ない監禁下での闘争でタテガミがなくなるほどストレスを味わい、「療養」と称して移送された場所は旧態依然とした監禁型の動物園。ハタリは死ぬまでの間どれほどの絶望を味わったのだろうか。 なぜ家族のように大事にしている動物を死に至るまで酷い環境に収容し続けたのだろうか。ライオンやゾウに芸をさせることについて、彼らは玄人だ。だが同時に野生動物をエンターテイメントに使おうとする思考は、かれらが野生動物について無知であることの表れでもある。犬や猫をサーカスに使用することも問題だが、野生動物の使用はさらに深い苦悩を引き起こす。犬の例を見てもわかるとおり動物が家畜化されるまでには人為的選択をへて数千年かかる。ライオンやゾウは家畜化された生き物ではない。かれらには野生下と同じ強いニーズがある。英国獣医師会がいっているように、「家畜化されていない野生動物の福祉は、巡回サーカスの環境内では満たすことができない。」のだ。 Legal challenge used to block circus animals ban By Martin Hickman, Consumer Affairs Correspondent Wednesday 18 May 2011私たちはサーカス自体を否定しているわけではない。サーカスでの人間のパフォーマンス、趣向をこらした演出はエンターテイメントとして素晴らしいと思う。そのエンターテイメントに動物を使うべきではないと言っているだけだ。 動物利用を止めれば動物虐待を放棄できるだけでない。餌代・世話にかかる労働力、ライオンなどの特定動物を飼育し続けるリスク(災害時の逸走など)も放棄できる。 動物の使用をやめて、3Dホログラムを導入したサーカス団 Circus Roncalliは、 興業的にも成功をおさめた。世界10か国で、各国の金融機関を監視。銀行がお金を投融資する先に環境破壊や人権侵害等の社会問題を引き起こしている企業がないかをチェックし、金融機関を評価しているFFI(フェアファイナンスインターナショナル)は、その評価項目(Fair Finance Guide International Methodology 2020)の中に「野生動物が関与したり、動物が怪我をする娯楽(サーカスや野生動物を使ったその他の娯楽ショー、イルカ水族館、象の乗り物、動物との格闘ゲームを含む)は容認できない」という項目をつくっている。動物を酷使する娯楽は今後ますます受け入れられなくなるだろう。エンターテイメントは進化し続けている。非難の声に耳をふさぎ、動物を使わなければならないという旧式の考えに固執し続ける限りエンターテイナーとして生き残ることはできないだろう。 Circus Roncalli関係者へ要望書提出木下大サーカスは現在東京都立川市で公演(2020年8月1日~)をおこなっている。次の企業に、アニマルライツセンターは意見書を提出した。主催/読売新聞社、日本テレビ、報知新聞社 *それぞれ問い合わせ先にリンクしています。ぜひ皆様からもご意見をお願いします。特別パートナー/株式会社立飛ホールディングス協賛/森永製菓、スズキ、コカ・コーラボトラーズジャパン、サントリー酒類、山九(追記)関係者の回答主催である読売新聞社、日本テレビ、報知新聞社からは回答が得られなかったため電話で問い合わせたところ「回答はしない」という方針でした。主催以外の企業については、文書で「動物福祉」を注視すると回答をいただいたり、サーカスの動物利用の実態に関心を持つ企業もありましたが、ただちに動物サーカスの支援を止めるとの回答を得ることはできませんでした(*一社のみ、まだ連絡がついていません)。要望書私たちは、動物の権利・福祉向上を願い、様々な提案活動を行う、認定NPO法人アニマルライツセンターです。 このたび貴社主催の木下大サーカスについて、要望したくご連絡差し上げました。要望動物を使用するサーカスを主催しないでください。Animal Defenders Internationalによると2020年7月16日時点で、56の国がサーカスでの動物使用を禁止あるいは制限をしています。年々動物サーカスへの非難の声は高まっており、禁止・制限する地域は拡がっています。日本国内では規制こそないものの、木下大サーカスの動物利用に対して市民が啓発運動を行うなど、問題視する声は拡がっています。 昨年の動物愛護管理法改正では、ライオンなどの特定動物の福祉が問題となり、愛玩目的での飼養が禁止になっただけでなく、「触れ合いや娯楽目的での飼養についても規制も検討すること」との付帯決議がなされています。 動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議 (令和元年6月11日)より引用。「特定動物の飼養・保管の許可については、人体への危害の防止、住民不安の解消、災害時の対策等の観点から、娯楽、触れ合い等を目的とした飼養・保管を規制する措置も含めた規制の在り方を検討すること。また、飼養施設の強度を担保し逸走防止策を図るだけではなく、移動檻での常時飼育などの不適切な扱いを防止し、特定動物のアニマルウェルフェアについても指導、監視できるよう検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。」犬や猫をサーカスに使用することも問題ですが、野生動物の使用はさらに深い問題を引き起こします。犬の例を見てもわかるとおり、動物が家畜化されるまでには人為的選択をへて数千年かかります。ライオンやゾウは家畜化された生き物ではなく、かれらには野生下と同じ強いニーズがあります。英国獣医師会がいっているように「家畜化されていない野生動物の福祉は、巡回サーカスの環境内では満たすことができない。」のです。狭い収容施設、長距離移動、芸の強要、すべてが動物福祉の大きな問題をはらんでいます。木下大サーカスでは、ゾウに逆立ちや後ろ足のみでの二足歩行をおこなわせますが、巨大な体重を抱えるゾウにとって、二本足で体を支えることは大きな負担となります。逆立ち、後ろ足立ち、ひざまずき、これらは関節や脊椎の損傷や爪の裂けにつながり、バランスをとる行為は、肘と膝に問題を引き起こす可能性があると、専門家は言います。引退したあとの動物の扱いも問題です。2010年にイギリスから木下大サーカスに連れてこられたホワイトライオンのうちの一頭、ハタリは他のライオンに襲われたあとで2011年に動物園に移されました。ハタリは「自律神経失調症と呼ばれる神経疾患」を発症し、たてがみが完全に脱落。療養として移送された池田動物園は、古いタイプの、狭く監禁型の動物収容施設でした。ハタリは2018年9月16日に死亡するまでこの動物園にとどまります。メディアは「死因は、胃に穴が開いたことによる腹膜炎とみられる。ホワイトライオンの寿命は20~25年程度で、早過ぎる死となった。」と報じています。動物サーカス側が、動物を家族のように思っていたとしても実態は奴隷です。動物サーカスを主催しないよう、要望致します。お手数ではございますが、貴社のお考えをお聞かせいただけますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。クリックして Twitter で共有 (新しいウィンドウで開きます)Facebook で共有するにはクリックしてください (新しいウィンドウで開きます)クリックして X で共有 (新しいウィンドウで開きます)Share This Previous Articleサーカスでの動物利用を禁止・制限する国々 Next Articleどうやって豚を穏やかに移動させるのか? 2020/08/12